はじめに

19世紀半ばに“スピリチュアリズム”が興ると、それまで何千年～何万年にわたって散発的に発生してきた「心霊現象」が、わずか40～50年の間に集中して、一気に再現することになりました。それはまさに“心霊現象の洪水”と言ってもいいような異常な状況で、人類史上初めての出来事でした。しかもそこで頻出した心霊現象のいずれもが、聖書の記述に見られる“イエスの奇跡”に匹敵するような驚異的なものばかりだったのです。

こうしたスピリチュアリズムにおける心霊現象のすべては、霊界の高級霊によって演出されたものであり、偶然に発生したのではありません。霊界からの計画的な働きかけの結果として、心霊現象が多発することになったのです。驚異的な心霊現象が次々と発生した背景には、霊界サイドの明確な意図が存在します。霊界の高級霊が、単に地上人を驚かせようといった面白半分の動機から、心霊現象を引き起こすはずがありません。そこには「人類全体の霊的成長を促し、霊的救いをもたらす」という壮大な目的がありました。その大目的を達成するために、高級霊たちは心霊現象を演出する計画を立てたのです。

スピリチュアリズムは、霊界の高級霊たちが主導している「地球人類救済プロジェクト」であり、心霊現象はその一環として計画されました。頻出した心霊現象は、地上人に対する霊的真理の伝道の前段階として「霊魂説」を証明することを使命としています。この目的のために、霊界サイドは苦労して心霊現象を演出してきました。

とは言っても心霊現象は、スピリチュアリズムの計画全体の中では霊的真理の“前座”にすぎません。シルバーバーチは心霊現象を“オモチャ”と呼び、霊的真理を受け入れるまでの前段階と位置づけしています。霊界側は心霊現象を利用して、地球人類を「霊的真理」にまで導こうとしてきたのです。

霊界側は、地球人類の霊性レベルに相応しいさまざまな心霊現象を演出してきました。人々の霊性が未熟な時代にはそれに合った心霊現象を引き起こし、霊性が向上したときにはもう少し次元の高い心霊現象を発生させる、という形で人類を導いてきました。このため心霊現象それ自体が進化のプロセスをたどることになり、“心霊現象の歴史”が形成されました。スピリチュアリズムにおいて集中的に発生した心霊現象は、未熟な段階から高度な段階へとレベルアップしてきたのです。

このようにして霊界側は、地球人類の霊性に見合った心霊現象を計画的に演出してきましたが、それは人類の「霊的成長」を願う高級霊たちの強い意志を反映したものと言えます（＊スピリチュアリズムから見た“心霊現象の歴史”については、第２部で詳しく説明しています）。

これまでも「心霊現象」を取り扱ったさまざまな書物（心霊現象事典の類）はありましたが、それらの大半は個々の心霊現象をただ羅列して記述する、というだけのものでした。多種類の心霊現象をアルファベット順（五十音順）に並べて解説する、というのが一般的でした。

心霊現象に対する従来の説明は、すべて地上サイドの視点からなされたものです。そこでは一つ一つの心霊現象について詳しく述べていますが、それは、いずれも心霊現象を外側から観察して記述したものにすぎません。心霊現象を漫然と説明しているだけで、心霊現象発生の霊的背景や、現象を演出する霊界サイドの動きについては全く明らかにされていません。心霊現象の表面をなでる程度のものでしかなかったのです。

第２部「スピリチュアリズムの心霊現象論（総論）」では、心霊現象を総合的な観点から見てきました。すべての心霊現象に共通する本質と原則を明らかにし、心霊現象のアウトラインをこれまでにない形で浮き彫りにしてきました。地球人類はスピリチュアリズムによって初めて心霊現象に関する深い知見を得て、その本質を洞察することができるようになったのです。

それに続くこの第３部では、総論の内容を踏まえたうえで、個々の心霊現象を取り上げます。スピリチュアリズムにおいて登場した多種類の心霊現象について詳しく見ていきます。さまざまな心霊現象を取り上げるという意味で、第３部は「ミニ版の心霊現象事典」と言えますが、心霊現象を整理する観点と視座は、従来のものとは全く異なっています。その意味でこの第３部は、これまでになかった画期的な「心霊現象解説書」と言えます。

「地球人類の霊的成長レベルに合った心霊現象を演出する」――こうした霊界サイドの意図・計画の観点から地上の心霊現象を解釈するという試みは、これまでスピリチュアリズムの中でもほとんどなされてきませんでした。霊的視点から心霊現象を眺めるとき、霊界人の意図が浮き彫りにされます。心霊現象を演出する霊界人の立場に立って観察するなら、スピリチュアリズムの計画全体をより明瞭に把握することができるようになります。一つ一つの現象にとらわれることなく、大きな流れの中で「心霊現象の本質」を的確に理解することができるようになります。

多岐にわたる心霊現象の名称やそのバリエーション、それらを引き起こした霊媒の名前を知ったからといって、心霊現象を真に理解したとは言えません。そうしたことはどうでもいい末梢の知識であり、表面的な事柄にすぎません。霊界人の意図と計画を知ってこそ、心霊現象の本質を理解したことになるのです。

心霊現象についての従来の扱いは、大半が地上サイドからのアプローチによるものでしたが、この第３部では霊界サイドからのアプローチによって心霊現象を説明していきます。これまで心霊現象を内側から、すなわち心霊現象を引き起こす霊界人の側から明らかにしたものはありませんでした。心霊現象の発生源である霊的世界から眺めたものはなかったのです。

しかし現代スピリチュアリズムによって、これまでにはなかった視点から心霊現象を説明することが可能になりました。個々の心霊現象には、それを引き起こした霊界サイドの意図があります。そうした霊界サイドの意図に重点を置いて心霊現象の意味を理解しようとするのが、この第３部の「心霊現象論」です。霊界人の観点から個々の心霊現象を整理し、その発生メカニズムを明らかにしていくことを通じて初めて、心霊現象の本質を正しく理解することができるようになるのです。

心霊現象は、地上人の目には不思議な現象・驚異的な現象として映ります。これまでの「心霊現象論」は、心霊現象を見て驚いた地上人がその詳細を記述するというものでしたが、ここでは徹底して霊界人の立場に立って眺めていきます。心霊現象を単なる不思議な現象としてとらえるのではなく、「地球人類救済の手段」として計画してきた高級霊の努力の足跡として見ていきます。

この第３部は、これまでスピリチュアリズムの中で記述されてきた個々の心霊現象を、もういちだん高い霊的視点から再認識・再評価・再確認するものとなっています。扱う対象（個々の心霊現象）は同じですが、それらに対する見方と解釈は全く異なっています。その意味でこの第３部は――「新・心霊現象解釈論」ということになります。

ここで述べている個々の心霊現象についての画期的な見解は、すべて高級霊の霊界通信によってもたらされたものです。複数の「高級霊界通信」によって明らかにされた心霊現象のメカニズムや真相・奥義を整理したもので、その多くが地上人にとって初めて手にした知識です。この第３部を読まれた方の誰もが、示された内容の深さと卓越性に驚かれるはずです。『シルバーバーチの霊訓』や『霊媒の書』などの高級霊界通信がなければ、これほどの内容を明らかにすることはできませんでした。

第３部の「個別心霊現象編」の画期的な見解を通して、高級霊の叡智と思想がいかに深遠なものであるか、再確認していただきたいと思います。高級霊の視点と比べるならば、地上の霊能者の見方など、まるで赤子のように感じられるはずです。

この「個別心霊現象編」で示した内容は、『シルバーバーチの霊訓』によって初めて解明することができたものです。それまでの心霊研究では、現象の存在だけは分かっていても、その詳しい発生メカニズムまでは明らかにすることができませんでした。『シルバーバーチの霊訓』の登場によって、神秘的・驚異的な現象と見なされてきた「心霊現象」について、明確な形で理論的・合理的に理解することが可能となったのです。

ここでの内容をじっくりと読んでいただけば、世の中の神秘思想や神秘主義などとは次元が異なるものであることが明瞭に理解されるはずです。今、こうした形で『シルバーバーチの霊訓』をもとに心霊現象の実態と発生メカニズムが詳しく示されたことは、地球人類が現象に対する好奇心のレベルを越えて、霊的成長を目的とした“霊的人生”という真の信仰実践の時代に入ったことを意味しています。ここまで神秘の謎が解明されたということは――「いつまでも心霊現象を神秘化することなく、当たり前の現象として捉えなさい」という霊界からメッセージなのです。

スピリチュアリズム史上に登場した心霊現象は、それを演出した霊界サイドの目的の観点から分類することができます。心霊現象の「系統的分類」です。地球上に出現した心霊現象は、霊界人の意図・計画という点から見るとき、次の４つの系統に整理し分類することができます。「物理的心霊現象」「精神的心霊現象」「スピリチュアル・ヒーリング（心霊治療）」「霊界通信」です。地球上のほとんどすべての心霊現象が、この４つの区分のいずれかに含まれます。

これらの４系統の心霊現象は、内容においてそれぞれ他の系統の心霊現象とは違いがあります。その違いは「何を目的として心霊現象を引き起こすのか」という、霊界サイドの意図・計画に発しています。

第３部では、この４つの系統的分類にそって個々の心霊現象を見ていきます。