「ラップ現象」の特色

「ラップ現象」とは、誰もいない空間から突如、打撃音・叩音（ラップ音）が聞こえる現象のことで、その存在は広く知られています。スピリチュアリズム運動の地上での出発点となった1848年の“フォックス家事件”が、このラップ現象から始まったことはあまりにも有名です。

ラップ現象の歴史は古く、資料の中にもラップ現象についての記述が散見しています。昔の人々は“ラップ音”を悪魔や邪悪霊が発するものと考え、不吉な現象と見なし恐れていました。やがてそれが霊界に存在する霊からの“シグナル”であることが認識されるようになり、ラップ現象の意味合いが大きく変化することになりました。フォックス家事件では、ラップ音による霊からの通信内容が物証によって確認され、霊界と地上界の通信の可能性が証明されることになりました。このラップ現象がきっかけとなって「交霊実験」を通して“霊”と交流し、霊界の様子を探るという道が開かれました。こうして“近代スピリチュアリズム運動”が開始されることになったのです。

ラップ音は、霊界の“霊”によってつくり出される音です（＊「ラップ現象」のメカニズムについては、この後で説明します）。「霊がつくる音」という意味で、ラップ音を“心霊音”と表現することもあります。ラップ音にはさまざまな種類があり、ドラムを叩いているような音、のこぎりを引いているような音、ハンマーで物体を叩いているような音、時には楽器を奏でているような音など多岐にわたります。

ラップ現象は、後で取り上げる「ポルターガイスト現象」の中でひんぱんに発生します。

“ラップ音”と“自然音”の違い

心霊的な事柄に関心を抱いている人は、家がきしむ音や風によって発生する“自然音”を、しばしば“ラップ音”と勘違いします。単なる物体運動にともなう音まで何もかも「心霊現象」と結びつけて考えるのは、明らかに過剰反応です。心霊現象に関する間違った知識と関心が、そうした勘違い・錯覚を引き起こすのです。世間で“ラップ音”と言われているものの多くが物理的な運動によって発生した“自然音”であって、心霊現象ではありません。

“ラップ音”と“自然音”の違いは、そこに霊からの意図が明確に示されているかどうかによって判別されます。目に見えない霊界の“霊”が、通信を送ることを目的として引き起こすのが「ラップ現象」です。自然音とラップ音を判別するには、“霊”に向けて何らかの質問をしてみればよいのです。例えば、「あなたは霊ですか？　あなたが意図的に音を出しているのですか？　もしそうなら２回音を立ててください」と尋ねて反応を確かめれば、ラップ音か自然音かがはっきりします（＊こうした“霊”への語りかけは、“コックリさん”などでごく当たり前に行われていることです。遊び半分で“コックリさん”などの交霊術を行うことには危険がともない賛成できませんが、そこにも「交霊」に関するヒントが示されています）。

「ラップ現象」は、最も原初的な“交霊法”

「霊界との交信」という点から言えば、「ラップ現象」はきわめて原初的なものです。霊界の“霊”が何らかの意図を持って引き起こすのが「ラップ現象」であり、それは最も初歩的で単純な“交霊法”です。“霊”の意図とは、自分に注意を向けさせたいとか、怒りや憎しみの思いをはらしたいとか、地上の遺族に愛を伝えたいといったものです。そうした思いを単純な音の発生で知らせようとするのです。“霊”が地上人に自分の意思を伝えることを目的としているという意味で、ラップ現象は一種の「霊界通信」と言えます。

しかし本サイトでは「霊界通信」の定義を――「霊界の高級霊が霊的知識・霊的情報を地上世界にもたらして地上人の“霊的覚醒”を促すための手段」としています。この定義に照らしてみれば、ラップ現象は霊界通信の要素を持ってはいても「物理的心霊現象」に分類されます。

「ラップ現象」のメカニズム

物理的心霊現象の大半は“エクトプラズム”の作用によって発生しますが、「ラップ現象」もエクトプラズムが関与することによって引き起こされます。エクトプラズムは、霊界の“霊”が地上の霊媒体質者から「幽質素」と「生体エネルギー」を取り出し、これに自分自身の「幽質素」と「霊的エネルギー」を加えることで合成されます。したがってラップ現象を引き起こすためには、地上サイドに「霊媒体質者」がいることが大前提となります。こうしてでき上がったエクトプラズムに霊が働きかける（意念エネルギーを投射する）ことによって「ラップ現象」が発生するのです。

ラップ現象に代表される「物理的心霊現象」の多くは、地上に近い幽界の下層に存在している“未熟霊・低級霊”によって演出されます。彼らは死後も地上臭を持ち続けているため、地上と接触しやすいのです。未熟霊たちは地上の「霊媒体質者」に接触してエクトプラズムをつくり出し、ラップ現象などの物理的心霊現象を発生させますが、好き勝手に現象を引き起こしているわけではありません。高級霊の統括のもとで展開されている“スピリチュアリズム”の「物理的心霊現象」は、エクトプラズムの合成からそれを用いた地上への働きかけの一つ一つに至るまで、高級霊の監視下に置かれています。

物理的心霊現象に不可欠なエクトプラズムは、常に地上人の目に映るとは限りません。「ラップ現象」は霊媒から流出するエクトプラズムを用いて発生させるものですが、こうした単純な物理的心霊現象の場合にはエクトプラズムを物質化させる必要がないため、それはたいてい地上人の目には見えません。

ラップ現象では、エクトプラズムによって空気の一部分が「霊的活性化」します。そして霊がある音を立てようと考えると、自然に空気が反応して霊の思い通りの音（空気振動・波動）が自動的に発生することになります。大半の地上人には“霊”の姿も“エクトプラズム”も見えないため、「何もない空中から突如、音が聞こえた」ということになります。以上が「ラップ現象」の発生メカニズムです。

心霊現象に関心を持っている人々の多くは、“ラップ音”は固体化したエクトプラズムが地上の物体にぶつかることで発生すると思っていますが、それは間違いです。エクトプラズムと物体がぶつかり合って音を発生させているのではありません。時には物質化したエクトプラズムの杖が机を叩いて音を立てるといったケースもありますが、それは地上人が理解しやすいように“霊”が演出しているだけです。ほとんどの「ラップ現象」は、物体が全く存在しない空中で発生します。エクトプラズムによって空気を支配した霊が、「高い音を出したい」と思えば空気が反応して高い音が発生します。同じように「低い音を出したい」と思えば低い音が発生します。地上人は、その結果だけを聞いているのです。

「ラップ現象」の衰退と、ラップに代わる心霊現象

空中から音がして、地上人の質問に霊が答えるという「物理的心霊現象（ラップ現象）」は、マジシャンにも簡単に真似ができます。“ニセ霊媒”は、さまざまなトリックを用いて人目に触れないようにして音を発生させます。代表的なトリックは、手足の関節を鳴らしてニセのラップ現象を起こす、というものです。

心霊現象に否定的な研究者は、“ラップ現象はニセ霊媒による手足の関節を用いたトリックである”と頭から決め付け、本物の霊媒を一方的に詐欺師に仕立て上げてきました。フォックス家事件の２人の姉妹も、関節音によるトリックの疑いをかけられることになりました。フォックス姉妹の場合は正真正銘の「ラップ現象（心霊現象）」でしたが、トリックを用いたニセモノが世間に広まる中で、ラップ現象はスピリチュアリズム展開の早い時期に主役の座を降りることになりました（＊“フォックス姉妹”に関する詐欺事件については、後で取り上げます）。

ラップ現象に代わって登場したのが、テーブルの脚を用いた「テーブルラップ現象（テーブルターン現象）」です。これは「物体浮揚」という物理的心霊現象によってテーブルをいったん空中に浮き上がらせてから、テーブルの４本の脚で“ラップ音”を発生させるというものです（＊この場合の“ラップ音”は、物体と物体のぶつかり合いから発生するもので、先に述べた空気の霊的活性化によるラップ音とは異なります）。「テーブルラップ現象」では、空中に浮き上がったテーブルの脚のうちのどれかが、交霊会参加者の質問に従って音を出します。「どの脚で何回」という細かい要求に対してもその通りに応えますし、右へ、左へ、前へ、後ろへと命じると、指示通りに動いて霊界からの通信を送ります。こうしたやり方なら、否定論者から関節音の疑いをかけられることはありません。「テーブルラップ現象」によって単なるラップ現象よりもはるかに多くの知的メッセージが届けられるようになり、霊界通信の可能性が示されることになりました。

この「テーブルラップ現象（テーブルターン現象）」は、ラップ現象の前に“重いテーブルを空中に浮き上がらせる”という別の物理的心霊現象（浮揚現象）の存在を前提としています。「浮揚現象」と一体となった「テーブルラップ現象」は、物理的心霊現象として重要な意味を持っています。

しかし霊界側からすれば、自分たちのメッセージを地上人に伝える方法としては、テーブルラップ現象でも十分ではありません。地球人類救済のために働く高級霊たちが「物理的心霊現象」の彼方に目指していたものは、大量の霊的知識・霊的情報を地上にもたらすことのできる心霊現象でした。その高度な目的を達成するためには、テーブルラップ現象よりも、もっと効果的な通信方法が求められます。そして霊界サイドから、新たな提案がなされることになりました。それが「プランシェット（プランセット）」や「ウィジャ盤」を用いた交霊方法だったのです。これらの方法はさらに進化して、自動書記をはじめとするさまざまな「霊界通信」へとつながっていくことになります（＊「霊界通信」については、次章（４）で詳しく見ていきます）。