「物体移動現象」の特色

人間が手を触れていないのに物体が動いたり倒れたりする、といった不思議な心霊現象の存在が昔から知られていました。これが「物体移動現象」です。物体移動現象は、科学的には説明できない特殊な力によって発生します。

物体移動現象では、物体は地上人の常識を超えた動き方をします。100キロ以上もある家具などの物体が突如動き出し、しかもそれが凄まじいスピードで何メートルも移動します。くるっとすばやく方向を変えたり、人間が力を加えてもできないような動きをすることもあります。まるでロボットのような動きをするのです。また、イスやテーブルが瞬間的に空中に投げ出されるように移動することもあります。空中に浮き上がって、しばらくそのままの状態を維持することもあります（＊物体や人間が空中に浮き上がる現象を「浮揚現象」と言います。従来の心霊学では「浮揚現象」を「物体移動現象」と同じ心霊現象として分類していますが、本サイトではあえて区分して取り上げています。「浮揚現象」については次で説明します）。スピリチュアリズムの心霊研究では、どうして物体移動現象が発生するのかが重要なテーマになりました。

科学者や知識人はとかく、“自然の法則に反した物体の移動など起きるはずがない”と決め付けます。そして心霊現象を認める“スピリチュアリスト”を、迷信を信じる軽率な人間、トリックに簡単に騙される知性の低いお人好しと考えます。心霊現象の解明に乗り出した科学者は当初、一様に心霊現象をトリックの類と思っていました。ところが実験・研究が進むにつれて、それまでの否定的な見方を覆して肯定的な見解を述べるようになっていきました。

「物体移動現象」の研究に着手した科学者の中には、かの有名なＡ・Ｗ・クルックス博士もいました。博士は最初、“心霊現象のウソを暴いて世の中から追放しよう”と意気込んでいましたが、生々しい心霊現象の現実に遭遇してそれまでの考え方を180度変えることになりました。クルックス博士は心霊現象を目の前にして――「私が観察している現象をどのように説明したらいいのか困惑している。これは思想の現象化と言うべきもの、霊的なものであり、哲学では理解できないものである。しかし誰もその事実を無視することはできない。もしこのような現象を解明する答えが得られるなら、私はそれがどのような分野であっても大いに満足するであろう」と率直に思いを吐露しています。

これは“唯物主義”を正当なものと考えていた科学者の“敗北宣言”と言えます。

「物体移動現象」のメカニズム――“エクトプラズム”による霊的活性化

すでに述べてきたように「物理的心霊現象」の多くが、霊界の霊によって合成された“エクトプラズム”という特殊な半物質の作用によって引き起こされます。エクトプラズムと接触した物体が霊的活性化し、霊の「意念（思念エネルギー）」に反応して自ら動くようになります。地上人には固体化したエクトプラズムが物体を動かしているように見えますが、実際は物体そのものが“霊の一部分”となって動いているのです。

エクトプラズムによる霊的活性化が、「物理的心霊現象」のメカニズムの核心です。エクトプラズムを地上の物体に接触させることで、物体は霊的活性化し、霊の一部分・霊媒の一部分のように変化します。そうした物体に霊が思念エネルギーを投射すると、その意思に従って物体が動くようになります。精密な“分身ロボット”として動くようになるのです。

霊的活性化した物体は、どんなに重いものでも、まるで生き物のように自由自在に動かすことができます。地上ではとても動かすことができない物体も、重力の影響を受けない宇宙船の中では簡単に動かせるようになりますが、それと同じことが起きるのです。

エクトプラズムによる「霊的活性化作用」について説明することは、現時点の地上の知識レベルでは不可能です。現在の地上人が持っている知識では、誰もが納得するような説明はできません。現代人は皆、原子エネルギー（原子力）の存在を知っていますが、300年前の人間にはどのように説明しても理解させることはできなかったでしょう。それと同じことがエクトプラズムによる「霊的活性化」についても言えるのです。

現在、物質には固体・液体・気体という３つの状態があることは誰でも知っており、それは科学的常識とされていますが、エクトプラズムによる「霊的活性化」は、物質は固体・液体・気体以外の状態を取ることがあることを示しています。いまだ科学では解明されていない物質の状態がある、ということなのです。物質については、21世紀の現代科学でも分からない多くの謎があるのです。

２種類の「物体移動現象」――“サイキックなもの”と“スピリチュアルなもの”

エクトプラズムの作用（霊的活性化）によって物体が移動する現象を「テレキネシス」と言います。「物体移動現象」には、このテレキネシス以外にもう一つの種類があります。それがエクトプラズムを用いずに、地上の霊能者・超能力者が自らの幽質素と意念を活用して物体を動かす現象です。人間の意志の力がエネルギーとして作用し、物体を動かすのです。これが「サイコキネシス」で、「念力現象」と呼ばれることもあります。テレキネシスが霊界サイドの働きかけによって引き起こされる「スピリチュアル心霊現象」であるのに対し、サイコキネシス（念力現象）は霊界からの関与がない中で地上の霊能者の力だけで発生する「サイキック心霊現象」です。

スピリチュアリズムの初期には、“エクトプラズム”の作用によって多くの「物体移動現象」が演出されました。物体移動現象といえば「テレキネシス現象」を意味していました。しかし“霊”や“エクトプラズム”の概念を持ち込まずに、物体移動現象のメカニズムを明らかにしようとする研究者もいました。ある研究者は「物体移動現象」について、交霊会参加者のトータル的な意志の力によって引き起こされるとする見解を述べています。また別の研究者は、地上人の脳と神経のエネルギーによって引き起こされるものであると考えました。霊界の“霊”の存在を認めないところで物体移動現象を解釈しようとすれば、「念力」という人間の意志の力・思念エネルギーが物体を動かすという見解に帰着せざるをえなくなります。

「物体移動現象」の分類

以上、物体移動現象について説明してきましたが、物体移動現象を整理して分類すると次のようになります。

「超心理学」によるサイコキネシス研究

スピリチュアリズム初期の心霊研究は「霊魂説」の証明を目的としていましたが、やがてそれは路線の違いから分裂し、20世紀になって「超心理学」という新しい研究分野が生まれることになりました。Ｊ・Ｂ・ライン博士に代表される「超心理学」では、物体移動現象を思念エネルギー（念力）による働きかけ、すなわち「サイコキネシス」として解釈しようとしました。

テレキネシスでは物体移動現象は霊と霊媒とエクトプラズムによって発生すると考えるのに対し、サイコキネシスでは霊とエクトプラズムの関与なしに霊能者・超能力者の力だけで現象が発生すると考えます。超心理学では「物体移動現象」を心霊世界から切り離し、人間の能力だけに限定して研究を進めました（＊これは“スピリチュアリズム”からすれば明らかな後退であり、正道からの逸脱以外の何ものでもありません）。こうして人間の持つ「超能力」によって物体を動かす現象が「サイコキネシス（念力）」として広く知られるようになりました。サイコキネシス（念力）の立場を徹底すると、心霊（霊の存在）は不要ということになります。

ライン博士は、「被験者に“サイコロに特定の目を出させよう”とする念の力（意念）を働かさせてその結果を測定する」という方法で実験を進めました。結果を統計処理して「念力」の存在を確かめようとしたのです。この研究はまずまずの成果を収め、人間の意志の力が物体に何らかの影響を及ぼす事実が確認されることになりました。しかし厳密な意味では科学的な条件を満たすことができなかったため、実験結果は正式には認められませんでした。この実験は、人間の意志（心）が科学の対象とはなり得ないことを再確認する出来事となりました。“心”は物質ではないため、科学の対象としては初めから無理があったということなのです。

「サイコキネシス現象」の特色とメカニズム

霊の関与のもとでエクトプラズムという特殊な物質を利用して発生する「テレキネシス」と、霊の関与もエクトプラズムもないところで発生する「サイコキネシス」では、現象としての影響力は天と地ほどの違いがあります。テレキネシスでしばしば行われるテーブルなどの移動は、サイコキネシスでは全く不可能です。サイコキネシスでは、物体に対して大きな影響力を及ぼすことはできません。サイコキネシスの実験で物体を動かす場合、エンピツやタバコなどの小さなモノが対象となるのはこのためです。

「サイコキネシス現象」を発生させた霊能者・超能力者・気功師は、小さな物体を動かしただけでエネルギーを使い果たし、見ていて気の毒なほどへとへとになります。一人では歩くことができないほど疲れ果ててしまいます。「テレキネシス現象」では、重いテーブルや家具を動かしたり空中に浮揚させた後でも、霊能者は概して元気なのとは対照的です。一方、本人は「念力」だけを使用していると思っていても、実際には霊界からの働きかけのもとで現象を演出しているというケース（テレキネシス）も存在します。こうした場合は、大きな疲れを残すことはありません。

超心理学の研究者は、「サイコキネシス」は人間の意志の力（念力）の作用によるものと思っていますが、実は意念を集中する際に自らの「幽質素」を無理やり引き出して、それに「思念エネルギー」を加えています。本人は念（意識）を集中させているだけだと思っていますが、自動的に「幽質素」をしぼり出しているのです。半物質の幽質素に思念エネルギー（念力）が加わると、相手の人間や物体にそれなりの影響力を及ぼすようになります。「サイコキネシス」は、霊能者自身の幽質素と生体エネルギーを犠牲にすることによって、対象となる人間や物体を動かす現象なのです。

人間を対象とした「サイコキネシス」の特殊事情――「テレパシー現象」との共通性

最近テレビなどで、中国の気功師が手を触れずに物体を動かしたり、複数の人間を一度に倒すといったパフォーマンスを演じています。また日本古来の武術で、相手の身体に触れずに投げ飛ばすといった業（※遠当て）も広く知られるようになりました。こうした現象は、一種の「サイコキネシス」です。

人間を対象とする「サイコキネシス」では、術者の思念エネルギー（念力）が大きな反応を引き起こしますが、物体を対象とする場合にはそれほど大きな反応を引き起こすことはありません。サイコキネシスでは、感受性を高めた何十人もの人間を同時に操ったり倒すことができます。しかしそうした派手なパフォーマンスができる術者であっても、小さな物体さえなかなか動かすことができません。

これは人間には“心”があり、それが思念エネルギーの“受信機”の役目を果たしているからです。物体には人間の“心”のような受信機能がないため、思念エネルギーの影響が及びにくいのです。人間の心の感受性・被暗示性を刺激して影響力を行使するのはさほど難しいことではありませんが、心を持たない物体に影響を及ぼすことは難しいのです。人間を相手にした「サイコキネシス」のパフォーマンスは見た目は派手ですが、影響力としてはそれほど大きなものではありません。

人間を対象とした「サイコキネシス」には、後述する「テレパシー現象」と重なる部分があります。人間を対象としたサイコキネシスでは、テレパシーや催眠術と共通する反応が引き起こされます。術者が思念を集中して相手に投射すると、その人間の心は術者の思念をキャッチして何らかの反応をしようとします。もし術者の思念エネルギー（念力）が強いときには、相手の人間の心を部分的に支配することもあります。そして術者が心で念じる反応が、相手の身体上に発生するようになります。

もし相手（受ける側）の人間の念力が強いときには、術者の念力（思念エネルギー）は影響力を発揮することはできません。また相手が、術者の思念エネルギーを意識的に受けないようにすると、反応は発生しなくなります。術者の語る言葉を聞き流したり無視すれば、術者の思念エネルギーは遮断され、相手（受ける側）の心にアクセスすることはできません。こうした事情は、催眠術にもそのまま当てはまります。術者と目を合わせないようにし、術者の言葉を聞かないようにして他の事に意識を向けていれば、催眠術にはかかりません。

サイコキネシスによって相手の人間に影響を及ぼそうとするときには、相手が術者の存在と言葉を受け入れること、すなわち好意的な態度をとることが必要です。内面的に受身の姿勢をとることが大前提となります。そうしたときサイコキネシスは、離れた相手にも影響力を発揮することができるようになるのです。