「物質化現象」の特色

霊界の職人霊によって合成されたエクトプラズムが霊媒の身体から流出し、地上の物体や人間の肉体を霊的活性化します。すると物体や人体は霊の意念に従って反応するようになり、さまざまな「物理的心霊現象」が引き起こされます。

一方、物理的心霊現象の中には、これとは異なるメカニズムで発生するものがあります。エクトプラズム自体が固体に変化して、他界した人間の生前の姿を再現するもので、「物質化現象」とか「幽霊形成現象」と言います。この「物質化現象」では、交霊会の参加者は全員、他界者の生前の姿を目撃することになります。“死者が生き返った”という話を聞いても信じる人はいませんが、物質化現象ではそうした信じられないようなことが実際に起きるのです。

“他界した人間が生前と同じ姿で現れる”という出来事は、まさに奇跡以外の何ものでもありません。数ある物理的心霊現象の中でも、最も驚異的な現象、想像を超えたきわめて特殊な現象と言えます。自分の目で見ないかぎり、決して信じることができない現象です。さらに驚くべきことに、出現した霊（物質化霊）が交霊会の参加者と話をしたり、握手をしたり、食事をするのです。世間では“幽霊が出現した”というだけで大騒ぎをしますが、「物質化現象（幽霊形成現象）」では、そうした次元をはるかに超えた世界が展開します。“死者が生き返って地上人と一緒に行動する”という常識では考えられないようなことが、現実のものになるのです。

「物質化現象」は、究極の幽霊現象

すでに亡くなっている人間が、生前と同じ姿をとって出現する「物質化現象」が事実であるなら、「人間は肉体の死によって消滅する存在ではないこと（霊魂説）」が証明されることになります。“人間は死によって消滅する”と信じている人々にとって物質化現象は、作り話としか考えられません。物質化現象について「信じられないことだが、どうやら本当らしい」という噂が広まると、霊魂説を認めない人の中には、自分で確認しようともせずに否定するという卑怯な態度に出る人間も現れます。

いったん死んで肉体を失った者が再び生前と同じ姿で出現するという出来事は、一般には“幽霊現象”と呼ばれますが、「物質化現象」はその幽霊現象の究極の形と言えます。死んだはずの人間が、生前と全く同じような肉体を携えて現れるだけでなく、地上人と親しく交わって話をしたり、握手をしたり、時には一緒に食事をすることさえあるのです。

ほとんどの場合、幽霊は偶然現れるものですが、高級霊が支配するスピリチュアリズムでは計画的に“幽霊”を出現させ、地上の科学者たちがその研究にあたることになりました。それによって世間で恐れられてきた幽霊の実態が、明らかにされるようになったのです。

「物質化現象」は、最高次元の物理的心霊現象

物理的心霊現象の中で「物質化現象」は、文句なしに頂点に位置します。霊界からさまざまな物理的心霊現象が演出されてきましたが、それは「物質化現象」においてピークに達しました。物質化現象は、物理的心霊現象演出の最大の目的である「霊魂説」をストレートに実証するものです。スピリチュアリズムの初期に発生した物理的心霊現象は、当時の科学者や研究者を驚かせました。彼らの唯物的思考を根底から揺さぶり、世界観・人生観を否応なく変革させることになりました。

当時の驚異的な「物質化現象」は数多く写真に収められているため、21世紀に生きる私たち現代人も、それらの現象を見ることができます。物質化現象の写真は「霊魂説」の真実性を示す確固たる証拠であり、それは“死によって人間は消滅する”“死後の世界や霊魂はない”という唯物的な考えを粉々に打ち砕いてしまいます。これほど威力のある衝撃的な心霊現象は他にはありません。物質化現象は、まさに「最高次元の物理的心霊現象」なのです。

「物質化現象」のバリエーション

物質化現象は、すでに他界して霊界にいる“霊”が、固体化したエクトプラズムで生前の肉体を形成して地上人の前に現れる現象です。物質化現象には、さまざまなバリエーションがあります。

まず、エクトプラズムによる生前の肉体の形成が全身に及ぶ場合と、身体の一部分にとどまる場合があります。全身の形成には、大量のエクトプラズムと霊的エネルギーが必要となります。身体の部分的な形成では、腕や指先、顔だけというケースが多く見られます。全身が再現されるものを「全身物質化現象」と言い、一部分だけが再現されるものを「部分的物質化現象」と言います。

また、物質化現象においてはエクトプラズムの固体化（物質化）のレベルもさまざまです。物質化には無数の段階があり、一口に「物質化現象」と言ってもそのレベルは一様ではありません。物質化レベルが完全なケースでは、地上人と全く変わらない肉体のコピーが形成されます。出現したコピー体（再現身体）は、地上人の肉体と同じような硬さや弾力を持っており、これを「完全物質化現象」と言います。この物質化レベルが最も進んだ状態では、出現した霊の身体（コピー体）は誰の目にもはっきりと映り、誰もがそれに触れることができます。

一方、物質化があまり進まず、地上人の目（肉眼）でかすかに認識できる程度にとどまるものもあります。こうした場合、コピー体は透けて見えたり、手で触ってもほとんど感触がなかったりします。これを「気化体的物質化現象」と言います。世間で“幽霊を見た”と騒がれるのは、たいていこのケースです。

ここで「物質化現象」と呼んでいるのは、他界した人間がエクトプラズムによって生前の姿を再現する現象（幽霊形成現象）を指していますが、物質化現象（エクトプラズムの物質化）では目的に応じて人間の身体以外のモノが形成されることもあります。

その代表が「直接談話現象」における“発声器”です。「直接談話」とは、霊界の霊が地上の霊媒を介さずに直接語るという心霊現象ですが、その際、物質化した“ボイスボックス（発声器・人工声帯）”が用いられます。霊界の職人霊がエクトプラズムで発声器をつくり、それを通信霊が用いて地上人にメッセージを語るのです（＊「直接談話現象」については、４章の「霊界通信」の箇所で詳しく説明します）。また、必要に応じて動物や植物が形成されることもあります。

霊界ではすべての霊が、霊界の大気中から流動物（霊質素）を引き寄せて自分のイメージするモノを自由につくることができます。思念によって思い通りのモノを出現させることが可能ですが、地上でそれに近いことを“エクトプラズム”を用いて行うのが「物質化現象」なのです。

「物質化現象」の実例〈１〉――ケーティ・キング霊

スピリチュアリズム初期の心霊研究（交霊実験会）では、数多くの物質化現象が発生しました。エクトプラズムによるコピーの身体をまとった死者（霊）が、地上人の前に次々と姿を現しました。そうした数ある物質化現象の中から、ここではよく知られている３つの実例を紹介します。ケーティ・キング霊の物質化現象、霊媒エバ・Ｃによる物質化現象、霊媒マージャリーによる物質化現象です。

「物質化現象」は物理的心霊現象の花形と言えますが、その代表的なものが霊媒フローレンス・クックを通して出現した“ケーティ・キング霊”のケースです。この物質化現象は心霊研究史上、最大の出来事と言っても過言ではありません。ケーティ・キング霊の物質化現象は、1872年、ロンドンの女性霊媒フローレンス・クック（当時15歳）によって始まりました。そしてその調査・研究に乗り出したのが、当時一流の科学者であったウィリアム・クルックス博士でした。クルックス博士は、ケーティ・キング霊の物質化現象に関する研究結果を公表するまでに、３年もの期間をかけています。その調査報告の内容は、これまでの心霊研究の中で最も厳密な検証を経たものとして高い信頼を得ています。

生前のケーティ・キングはウェールズ出身の女性で、チャールズ二世の時代にジャマイカ総督を務めたヘンリー・モーガンの娘（妻との説も？）と言われています。ケーティ霊は初め、複数の霊媒を通じて出現していましたが、やがてフローレンス・クックを通じて物質化して現れるようになりました。

交霊会では、霊媒フローレンス・クックと物質化霊ケーティ・キングを区別するために、クック嬢の手・首・腰はしっかりと縛られて固定され、結び目には封印が施されました。そうした厳格な状況のもとで、物質化したケーティ霊が出現したのです。ケーティ霊は最初、フラッシュに耐えられずに写真撮影を拒んでいましたが、やがてそれ（＊マグネシウムを用いたフラッシュ）に耐えられるようになって写真撮影が可能となりました。そして、ケーティ霊に対するさまざまな実験・研究が行われることになりました。

実験中の様子について、クルックス博士は次のように報告しています。

完全に物質化したときのケーティ霊の再現身体は、地上人の肉体にきわめて近い状態でした。ケーティ霊の腕に触れた研究者によると、皮膚は蝋（ロウ）や大理石のように滑らかで地上人と同じような体温を持ち、汗ばんでいることもありました。血管や神経や分泌器官もあり、血液は体中をめぐり、心臓や肺などのあらゆる臓器を持っていました。要するに地上人が持っているものは、すべて備わっていたのです。

あるとき、ケーティ霊の手首に骨がないことを知ってそれを告げると、１～２分たってもう一度、ケーティ霊が腕を伸ばしてきました。確認してみると、いつの間にか骨ができていました。またあるとき、交霊会参加者の一人が突然ケーティ霊の手首をつかむと、手首は紙でこしらえた物体のようにしわくちゃになってしまいました。

ケーティ霊は交霊会の間、参加者と親しく言葉を交わし、あらゆる実験に応じるなどきわめて好意的な姿勢で臨んでいました。クルックス博士は、ケーティ霊と霊媒クックが別の人間であることを証明するために力を注ぎました。参加者の中には、ケーティ霊の顔がクック嬢と似ているのではないか、と批判めいたことを言う者がいたからです。

ケーティ霊も、霊媒クックと自分が別人であることを証明するために積極的に協力し、クック嬢とは異なる皮膚の色を次々と演出したり、髪型や衣装や目の色を変えています。クック嬢の髪は長くてちぢれ毛でしたが、ケーティ霊の髪はそれとは異なっていました。クルックス博士は、ケーティ霊とクック嬢の身長が違っていることも確認しています（＊ケーティ霊の身長はクック嬢より６インチも低くなったり、４インチも高くなったりしています）。また、ケーティ霊の両耳にはピアスの穴がないのに対してクック嬢の耳には穴があること、顔色も体形も違っていること、さらには先に述べたようにケーティ霊とクック嬢の脈拍が違うことも確認しています。そして何よりも44枚の写真が撮られ、両者が別人である物証が残されているのです。実験中、縛られてトランス状態にあるクック嬢のそばにケーティ霊が立っていたり、明るい光の下で一緒にいる様子が写真に収められています。

クルックス博士は、ある日の交霊会の様子を次のように述べています。

ケーティ霊が出現するありさまは驚異的ですが、交霊会の最後に姿を消す様子も衝撃的です。ケーティ霊は多くの場合、忽然と現れ、忽然と消えるのですが、時にはそれとは違った様子で出現し消滅することもありました。

ある日の交霊会が終わりに近づいたとき、物質化していたケーティ霊の身体が徐々に溶け始めました。それはさながら蝋人形が高温で溶けていく様子、雪だるまが溶けていく様子に似ています。初めに身体の輪郭がぼんやりとし始め、やがて両目が失われ、鼻が消え、顔が崩れ落ちていきます。そして建物が崩壊するように身体が崩れ、背がだんだん低くなり、床の上にケーティ霊の頭部だけが残ります。最後に、身にまとっていた白い飾り布がかき消すように見えなくなりました。

ケーティ・キングの物質化現象の実験・研究は足掛け３年に及びましたが、それはケーティ霊の使命終了宣言をもって終わることになりました。ある日、ケーティ霊は「私の使命はこれで終了しました。もう二度と出てまいりません。あちら（霊界）での仕事が待っておりますので……」と言い、その言葉通り、二度と現れることはありませんでした。

ケーティ・キング霊の物質化現象

「物質化現象」の実例〈２〉――霊媒エバ・Ｃによる物質化現象

物質化現象においてケーティ霊のケースに匹敵する実験・研究が、ノッチング博士ら３人の科学者によって行われています。この心霊研究では、通称エバ・Ｃと呼ばれているフランス人の女性霊媒による「物質化現象」の検証がなされました。エバ・Ｃによる物質化現象の実験は、トリックの可能性を排除するために徹底した厳格な条件下で３年以上にわたって進められ、その信憑性に疑問の余地はありません。おびただしい数の写真が物証として残され、科学的手法によって検証された物質化現象として近代心霊研究史上、記念碑的な意味を持っています。

３人の研究者の一人（ジュレー博士）は、エバ・Ｃの物質化現象について次のように述べています。「私は顔や手が完全に形成されるのを何度も目撃しています。物質化が完全な場合、生きた人間の肉体の一部としか思えない物質化身体が出現しました。私は骨も関節もある完全な手を見ました。指には爪も生えていました。豊かな髪の毛があり、頭蓋骨も確認することができ、生きている人間さながらの顔を目の当たりにしました。そして多くの場合、私は物質化のプロセスを初めから終わりまで目の前で観察することができたのです。物質化像は、生きた人間のように動くこともできました。私は何度も完全に物質化した手に触れられたり、つかまれたりしました。」

また、シャルル・リシェ博士（＊ノーベル生理学賞受賞）も、エバ・Ｃの物質化現象に立ち会ったときの様子を次のように述べています。「私は確かに温かい血の通った生きた肉体が目の前で形成され、個性を持った一人の人間の姿になるのを目撃しました。私は３人の研究者と同じように、物質化現象を最初からつぶさに観察する機会を持ちました。マルテ（＊エバ・Ｃの本名）の口や乳房から、液体ともゼリー状の粘液とも見分けがつかない物質（※エクトプラズム）が出てくると、それがひとりでに人間の顔や手を形成していくのです。私はこの物質が、彼女の膝の上で人体を形づくっていくのを、明るい照明のもとで目撃しました。」

エバ・Ｃの物質化現象

ケーティ・キング霊の物質化現象、霊媒エバ・Ｃによる物質化現象と並んで、スピリチュアリズムの心霊研究における有名な物質化現象が、霊媒エリザベス・デスペラント夫人によって引き起こされています。デスペラント夫人から流出したエクトプラズムが、支配霊ヨランデの物質化像を出現させます。ヨランデは15歳のアラビア人の少女で、茶目っ気があり、たいへんな人気者になりました（＊ここではデスペラント夫人による「物質化現象」についての詳しい説明は省略します）。

「物質化現象」の実例〈３〉――マージャリー霊媒による物質化現象

先にアポーツ現象の箇所で霊媒マージャリーについて取り上げましたが、彼女は1926年頃から、支配霊ウォルター（＊1912年に列車事故で他界した人物）の身体の一部分（腕）を物質化させるようになり、いくつかの親指の指紋を残しています。ウォルターは人生最後の汽車旅行に出かける前に剃刀（カミソリ）で髭をそり、そのカミソリをトランクにしまい込んでいました。ウォルターが事故死してから15年後、彼の母親がトランクにあったカミソリを見つけ、専門家に指紋の照合を依頼しました。その結果、物質化した手の指紋と、カミソリについていた指紋が一致しました。

マージャリーの交霊会における物質化現象の写真の中には、物質化した両手を立会人がつかんでいるものがあります。また、彼女の腹部あたりから物質化した腕が出現して指紋を残そうとしている写真も見られます。

霊媒マージャリーによる物質化現象

物質化した霊が、自分の手や足や顔の鋳型をパラフィン（ロウ）や粘土で作成するという現象があります。これが「成型現象」とか「モールド現象」と呼ばれる物質化現象です。この「成型現象」は1875年あたりから演出されるようになり、欧米で評判を呼ぶことになりました。“霊の手型や足型”がつくられる成型現象は、ある意味で驚異的な心霊現象と言えます。

成型現象（モールド現象）の本格的研究としては、1920～1922年にジュレー博士とリシェ博士が、ポーランド人の霊媒クルスキーを用いて進めた実験がよく知られています。この実験では当然、霊媒は第三者によって両手を拘束され、徹底した詐欺防止策が取られました。こうした状態に置かれた霊媒からエクトプラズムが流出し、それが霊の手や足や顔などを形成（物質化）します。そしてあらかじめ用意しておいた溶けたロウの中にそれらを突っ込んで、型を取るのです。このようにして手や足や顔などの鋳型が数多く作成されました。驚くべきことに手の鋳型には、指紋や掌紋までもがしっかりと残されていました。トリックが一切不可能な条件下で霊が身体の一部分の鋳型を形成する現象は、大きな反響を呼ぶことになりました。

霊媒クルスキーによる物質化現象

“イエスの復活”とは、実は「物質化現象」のこと

物質化現象はめったに起きることのない奇跡のように思われますが、実は人類の歴史の中ではしばしば発生しています。物質化現象は一般人には“幽霊の出現”と考えられ、恐れと驚きをもって受け止められます。一方、それは霊的洞察力に富んだ人々には「死後の霊の存在」を確信させる重要な出来事として認識されます。

聖書の中には、十字架にかかって死んだイエスが、弟子たちの前に生前の姿をとって現れたことが記述されています。キリスト教ではこれをイエスの死からの蘇り・復活とし、イエスがキリスト（救世主）であることを証明する奇跡的な出来事であると教えています。イエスの“復活”はキリスト教徒に、「復活したイエスを信じるなら、死後の救いが与えられるようになる」との信仰を確立させることになりました。

“死後の救い”は、地上人にとって最も重要な問題です。スピリチュアリズムをはじめ多くの宗教では、死後の救いの問題に対する回答を「霊魂不滅」によって説いています。「肉体は滅んでも、人間は“霊魂”としてあの世で永遠に生活するようになる」との見解によって、死後の魂の救いを示しています。人間の永遠の救いは地上ではなく、あの世（霊界）で達成されることになると説明しているのです。

しかしキリスト教の救済論は、イエスの“復活”によって説かれています。「霊魂不滅説」ではなく、「復活論」によって死後の救済を示しています。「復活論」とは、復活したイエスを信じることによって死後、自分の肉体も復活し、その肉体を持って地上で永遠に生きるようになる、というものです。

では、キリスト教で言う“復活した肉体”とは、いったいどのようなものなのでしょうか。これはキリスト教徒にとっても、きわめて難解な問題です。“復活した肉体”が今の肉体と全く同じものではないことは、キリスト教徒も認めます。復活後のイエスは、突如姿を現したり、反対に姿を消滅させたり、地上人である弟子たちと会話や食事をしています。つまり復活したイエスの肉体は、地上人と共通した部分を持つと同時に、全く違った部分も有しているということです。これが聖書に記されたイエスの“復活”の実態です。

キリスト教では、イエスによって示された復活の事実こそが“永遠の救い”そのものであるとし、イエスを“メシア”と信じることによって、イエスと同じ救いにあずかることができるとします。復活後のイエスと同じような肉体を持って、永遠に生きられるようになると考えるのです。イエスの“復活”は、キリスト教の「救済論」の根幹を形成しています。キリスト教では、復活はイエスという神の一人子であればこそ可能となった奇跡であり、イエス以外には起こり得ない出来事であると説いています。

しかしそうしたキリスト教の根幹教義が、スピリチュアリズムの心霊研究によって根底から覆されることになりました。キリスト教徒が人類史上最高の奇跡、イエスだけに起きたとする奇跡（死からの蘇り・復活）は、実はイエスだけのものではなく、霊媒などの条件さえ整えばいつでも発生する「心霊現象（物質化現象）」であることが証明されたのです。スピリチュアリズム初期の交霊実験会では、毎回のように物質化現象が演出されました。２千年前、イエスによって発生したのと同様の奇跡が立て続けに引き起こされ、それらが写真に撮られることになりました。

スピリチュアリズム初期の心霊研究を通してイエスの“復活”の実態が明らかにされ、イエスが死後、生前と同じ姿で弟子たちの前に出現した出来事は、ありふれた「物質化現象」であったことが証明されました。イエスの復活は、地上サイドにいる霊媒体質者（＊イエスの弟子たちの中の「霊媒体質者」）から幽質素を取り出してエクトプラズムを合成し、それによって生前の姿を再現するという「物質化現象」だったのです。復活後のイエスの肉体は、エクトプラズムによって地上人の目に映るようにつくられた肉体のコピー・再現身体だったのです。

唯物論者やキリスト教に批判的な人間は、イエスの復活の話は全くのデタラメ・作り話であると決め付けます。信仰の盲信性を示す例として取り上げます。それに対してスピリチュアリズムは、イエスの“復活”は事実であると認めます。ただし、復活についての解釈はキリスト教徒とは全く異なります。スピリチュアリズムでは“肉体の復活（死からの蘇り）”は、２千年前のイエス一人に限定された出来事ではなく、現在でも起き得る「心霊現象（物質化現象）」であるとします。このようにスピリチュアリズムは、世間の否定論者ともキリスト教徒とも異なる見解を初めて示しました。そしてその見解の正しさは、スピリチュアリズムにおいて進められた数々の心霊実験を通して実証されたのです。

以下では、聖書の中からイエスの“復活”に関連した箇所を引用します。イエスが死んだ後、復活して弟子たちの前に現れた際の状況は、心霊実験の場で死者が物質化して現れたときの様子と酷似しています。先にスピリチュアリズムにおける物質化現象の実例を見てきましたが、その内容と聖書に記されたイエスの復活の様子を比較してみると、まさしくそれは「物質化現象」であったことが分かります。

「物質化現象」のメカニズム

スピリチュアリズム初期の心霊研究では、多くの科学者や研究者が「物質化現象」を目の当たりにして、その事実を受け入れるようになりました。しかし物質化現象発生のメカニズムについては依然、大きな謎として残されることになりました。“エクトプラズム”という謎の物質が物質化現象に深く関わっていることは分かっていましたが、それがどのようにして「物質化」という驚異的な心霊現象を発生させるのかについては、明らかにすることはできませんでした。これまでいくつかの仮説が立てられたことはありましたが、そのいずれもが納得がいくような説明とは言えませんでした。

スピリチュアリズムは、1848年から地上で展開を始めました。その後、地上のスピリチュアリズムは試行錯誤の歩みの中でゆっくりと進化を続け、20世紀に入ってから、それまでの「初期スピリチュアリズム」を卒業して「現代スピリチュアリズム」の時代を迎えることになりました。そうした動きに連動して新しい霊的知識がもたらされ、これまで謎とされてきた物質化現象のメカニズムが少しずつ明らかにされるようになってきました。

「物質化現象」とは、エクトプラズムによる「肉体のコピー作成・肉体の再現化現象」と言えます。驚いたことに作成された肉体のコピーには、生前の肉体と同じように内臓があり、心臓は拍動し、体温があります。コピーされた身体が、まるで生きている人間の肉体と同じような機能を持っているのです。どうしてこうしたことが可能なのか、研究者たちはこれまでずっと頭を悩ませてきました。

物質化という「肉体のコピー作成・肉体の再現化現象」は、地上人が死を迎え、霊界に入っていくプロセスと正反対のプロセスを踏んで引き起こされます。私たち地上人は、「霊体」と「肉体」という２つの身体が同一場に重なり合って構成されています。地上人は霊体と肉体の“二重構造”から成り立っていますが、“死”とは、肉体という物質的身体が滅び、霊体だけになって霊界に入っていく出来事に他なりません。

霊体と肉体は別々の身体ですが、同じ場所に重複して存在しています。霊体と肉体は質が異なるために重複して存在することが可能となっています。それは“スポンジ”という肉体に“水”に相当する霊体が染み込んでいるような状態、と表現できます。肉体は霊体を覆う物質の衣服のようなものであり、“死”とはその衣服（肉体）を脱ぎ去ることなのです。

物質化現象は、地上人が死に至るプロセスを逆にたどることで発生します。まず、生前の肉体に近いものがエクトプラズムによってつくられます。霊媒から流出したエクトプラズムを材料にして“肉体のコピー”がつくり出されるのです。このエクトプラズムによる“再現身体”は、霊界の霊の指示どおりに（霊の意思に従って）反応します。これを再現予定の霊の「霊体」と合わせることで、私たち地上人と同じような霊体と肉体の“二重構造”が形成されることになります。

したがって「物質化現象」を霊界サイドの視点から言うならば、「エクトプラズムという半物質（霊界と地上界の中間物質）の衣類を出現予定の霊の霊体に着せる」「エクトプラズムを出現予定の霊の霊体に染み込ませる」ということになります。こうして霊体と肉体（コピー体）の二重構造ができ上がるのです。

出現予定の霊は当然、「心（霊の心）」を持っています。この「霊の心」の大部分は、地上時代には“潜在意識”としてさまざまな働きをしていました。潜在意識の働きの一つに肉体の自動コントロールがあります。肉体の動きをコントロールして、生活をスムーズに進める役目を担当しています。

肉体をコントロールする機能は、死によって肉体がなくなった後も「霊の心」に内在し保存されることになります。ただし肉体が消滅して出番がなくなると、その機能は心の片隅・心の深い場所にしまい込まれてしまいます。しかし、死後あまり時間がたっていない霊の場合には、地上時代の肉体の記憶がまだ心の表面に残されているため、肉体のコントロール機能を簡単に呼び起こすことができるのです。

地上に出現しようとする霊が「物質化現象」によって肉体のコピーを得て霊体と肉体の二重構造を形成すると、心の奥にしまい込まれていた肉体をコントロールする機能やさまざまな肉体の記憶が呼び起こされることになります。すると自動的に、生前と同じ脈拍や呼吸・心臓の鼓動など、種々の肉体機能が蘇ることになります。物質化した霊の身体（コピー体）に見られる特徴は、生前の肉体の機能が自動的に再現したものなのです。

こうしたこととは別に、“霊”はエクトプラズムに働きかけてそれを自由に変化させ、思い通りの形につくり替える能力を持っています。この能力を用いて霊界側は、地上人の関心に合わせて肉体のコピーに変化をつけることができるのです。意図的に背の高さを変えたり、髪の毛の色を変えたり、脈拍を変えたりします。骨がないときには、急いで骨のコピーをつくることもできます。以上が「物質化現象」のメカニズムです。

物質化には莫大な霊的エネルギーが必要となります。そのため霊界側は、さまざまな方法を講じてエネルギーを確保します（＊交霊会の参加者から少しずつエネルギーを集めたりする）。エネルギーが切れるとエクトプラズムを維持することができなくなり、再現身体は消滅し始めます。

「物質化現象」の意義――その価値と重要性を理解できなかった当時の人々

物質化現象ほど、死後の霊魂の存在をストレートに証明する心霊現象はありません。他界者が出現することで、「霊魂説」の正当性が明確に示されます。地球人類は近年、科学の発展とともに数多くの物質界の真理を発見してきました。そしてそれを用いて物質文明を飛躍的に発展させてきました。しかし、そうした現代科学による数々の発見も「霊魂説の証明」と比べるならば、その価値と重要性において足もとにも及びません。

もし当時の人間、特に知識層の人々が物質化現象の意味するところを正しく受け止めていたならば、人類史上最大の思想的変革が引き起こされたはずでした。地球上の宗教と人類の考え方が根本から変化したはずでした。しかし残念なことに人々は、物質化現象の真の意味を理解することができませんでした。「霊魂説の実証」は、原子エネルギーの発見よりも、未知の天体の発見よりも、はるかに重要で価値のある出来事だったのです。それは地球人類にとって最大の発見だったのです。

当時の人々は物質化現象の意義と重要性を正しく認識することができず、やがて忘れ去ってしまいました。一時は、物質化現象という不思議な現象を前にして人々は驚き恐れを抱きましたが、結果的に人類は、この現象をきっかけとして新しい精神段階に飛躍することはできませんでした。「物質化現象」においてスピリチュアリズム初期の心霊研究はピークに達しましたが、当時の人々の霊性の低さが、その重要性を理解することを妨げてしまったのです。霊界側は「物質化現象」という決定打を地球人類の前に示したにもかかわらず、肝心の地球人類はその価値を認識することができなかったのです。

そこで霊界側は物質化現象に見切りをつけ、別の方法を探すことになりました。そして人類を霊的に覚醒させ、霊性を啓蒙する新しい心霊現象として「スピリチュアル・ヒーリング」や「主観的心霊現象」へと方向転換することになったのです。

スピリチュアリズムの勃興から160年以上がたち、スピリチュアリズムは初期の時代から大きく霊的進化を遂げました。そして「現代スピリチュアリズム」が本格的に展開しようとするこの時代に、かつての心霊現象の意義やメカニズムが明らかにされることになりました。現在では、もはや当時のような物理的心霊現象・物質化現象による「霊的真理の普及・霊的啓蒙」は予定されていません。そうした現象は、時代遅れの方法として位置づけされています。それがスピリチュアリズム先進国において、ほとんど物理的心霊現象が見られなくなった理由なのです。

「変貌現象」と物質化現象

物質化現象では普通、エクトプラズムによって霊界の霊の生前の肉体（＊全身の場合と一部分の場合がある）のコピーが形成されますが、それとは少し異なる物質化現象があります。それは霊媒の顔自体がエクトプラズムによって変形し、故人（他界者）とそっくりの顔が現れるというものです。地上人（霊媒）の容貌が変化するため、これを「変貌現象」と言います。一般の物質化現象は、霊媒とは異なる他界者の肉体のコピーが形成されますが、この変貌現象ではエクトプラズムによって霊媒の顔が変化するのです。

変貌現象のメカニズムは一般の物質化現象と同じで、エクトプラズムによって霊媒の顔が覆われ、霊界の霊の意図する顔が形成されます。エクトプラズムを用いて肉体のコピーがつくられるのと同じメカニズムで、霊の顔だけが再現されるのです。

変貌現象では霊媒の顔が見ているうちに変化し、全く別人の顔になってしまいます。霊媒によっては１時間ほどの間に、十種類以上の顔を次々と出現させることもありますが、ほとんどの場合、エクトプラズムが変化してつくられたコピーの顔は10分ほどで消滅し、元の霊媒の顔に戻ります。

『霊媒の書』の中には、変貌現象に関する次のような記述があります。「これは生者の顔が死者とそっくりの顔に変貌する現象である。1858年と1859年に起きた信ずべき証言のある実例から紹介しよう。話題の主はまだ15歳の少女で、みるみるうちに顔かたちが変化して、まったく別人の顔になる。女性とは限らない。男性の場合もある。変貌してしまうと完全にその女の子ではなくなり、顔だけでなく声もしゃべり方も、そして背丈も体重もすっかり変わってしまう。同じ町の医者が何度も目撃して、それが目の錯覚でないことを確認するためにいろいろと実験し、それをすべて記録に残している。さらにその子の父親と他の数人の目撃証言も残っている。いちばん多く出現したのは20歳で他界したその子の兄で、身長も体重もかなり違っていた。医師は現象が始まる前にその子の体重を計り、兄に変貌した時にも体重計に乗ってもらったところ、ほぼ倍の重さがあったという。」（『霊媒の書』p.143～144）

『シルバーバーチの霊訓』の中にも、交霊会でシルバーバーチが、子供たちと会話をしている最中に霊媒バーバネルの顔を変貌させたことが記されています（＊『シルバーバーチは語る』p.398）。