「物理的心霊現象」の特色

物質次元での変化（物理的変化）をともなう心霊現象を「物理的心霊現象」と言います。物質次元で変化が現れるため、居合わせたすべての人々が、その現象を目で見、耳で聞いて確認することができます。そうした人々が物理的心霊現象の証人となります。時には現象が写真などに収められ、物証となることもあります。このように「物理的心霊現象」は、交霊会の同席者全員に共通して認識されることが最大の特色です。

この点で「物理的心霊現象」は、次章（２）で取り上げる霊媒の主観的世界（内面世界・精神次元の世界）に発生する現象（＊これを「精神的心霊現象」と言います）とは根本的に異なっています。

「精神的心霊現象」は霊媒の内部（内面世界）に発生するものであるため、その場に立ち合っている第三者には、直接認識することは不可能です。精神的心霊現象の実在については、霊媒を通じて間接的に知ることしかできません。そのため交霊会に参加していた者であっても、そこで発生した心霊現象の証人になることはできないのです。霊媒の語る内容が客観的事実と一致することが検証されて初めて、その現象の真実性が認められることになります。

「物理的心霊現象」演出の目的

スピリチュアリズムの初期（19世紀半ば～20世紀の初め）には、「物理的心霊現象」がひんぱんに引き起こされました。そうした物理的心霊現象を、一流の科学者たちが検証するという形で「心霊研究」が活発に行われました。

当時（ビクトリア女王時代）の英国では、科学と宗教が正面からぶつかり合い激しい闘争を展開していましたが、その結果は常に、宗教が科学に敗北するというものでした。科学は、物証のともなわない見解は決して認めようとはしません。宗教は、単に信仰心・信念やドグマに訴えるだけで、科学に対してはまともに反論することさえできませんでした。勝ち誇った科学は、ますます「唯物論」に傾き、宗教を駆逐する潮流が形成されようとしていました。

こうした時代的背景の中で霊界サイドは、当時の知識層の代表である科学者を利用して「霊魂の実在」を証明しようとしました。そして霊界サイドの計画通り、研究に携わった科学者たちの大半が、目の前に展開する生々しい「物理的心霊現象」によって霊魂の存在を認めることになりました。物理的心霊現象は、「唯物論」に凝り固まっていた科学者たちに「霊魂の実在」を認めさせるための最も効果的な方法だったのです。

物理的心霊現象は、一般の人々の目には自然法則を超越した奇跡的な現象、この世にあるはずがない不思議な出来事として映ります。科学者や唯物論者は、物理的心霊現象を頭からインチキ・ペテンの類と決め付けます。欧米社会では当時、マジック（奇術･手品）が大流行していました。物理的心霊現象を認めることができない人々は、物理的心霊現象にはマジックと同じような“トリック”があるに違いない、と考えました。心霊研究に携わった科学者たちも当初、例外なくトリックの可能性を疑い、それを暴くことで心霊現象の存在そのものを完全に否定しようとしました。

一方、いつの時代にも、霊能力がないのに霊能者の振りをして人々を騙し大金を得ようとする“ニセ霊能者”がいます。そうしたペテン師の不正が、当時の知識人の検証によって次々と暴露されました。また本物の霊能力があるにもかかわらず、人間的な弱さから一時的に不正を働く霊能者もいます。その悪事が摘発され、公にされることもありました。

このように数の上では圧倒的にニセモノが多いのですが、そこには必ず一握りの本物が存在します。そうした本物の霊能者による「真実の心霊現象」が、当時の科学者たちに反論の余地がない明確な証拠を突きつけることになりました。目に見えない霊（霊魂）の存在を実証し、「唯物論」に決定的な打撃を与えることになったのです。

物理的心霊現象から新しい心霊現象への推移――時代遅れになりつつあった「物理的心霊現象」

20世紀の初期（“第一次世界大戦”前後の時期）に至ると、それまでひんぱんに発生していた「物理的心霊現象」は徐々に減少していきました。センセーショナルな物理的心霊現象が影を潜めるにともない、それまでの真偽論争も下火になっていきました。

物理的心霊現象が減少していった背景には、20世紀に入って起こった“量子物理学”の存在があります。この新しい現代物理学の登場は、それまでの古典物理学における物質観と世界観を根本から変えることになりました。物質とは“質量”を持ったものであり、それは不変な実体であるとの科学的常識が根底から覆され、「唯物論」を主張することは時代遅れになりました。こうした時代的動きに合わせて霊界側は、物理的心霊現象の演出を減少させることになったのです。

しかし「唯物論」が破綻したからといって、人々がただちに「霊魂説」の正当性を認めるようになったわけではありません。「唯物論」が間違いであることは明らかになっても、依然として多くの人々は「霊魂説」を認めることはありませんでした。そこで霊界サイドは「霊魂説」の証明のために、物理的心霊現象に代わる新たな心霊現象を演出することになりました。それが「精神的心霊現象」と「スピリチュアル・ヒーリング（心霊治療）」だったのです。心霊現象は、“第一次世界大戦”前後の時期をターニングポイントとして物理的なものから精神的なものやスピリチュアル・ヒーリングへと変化していくことになりました。

21世紀の現代においても文明の後進地域では、多くの人々が昔ながらの知識レベルで生活し、迷信にとらわれています。そうした人々に対して「霊魂説」を証明するには、「物理的心霊現象」はきわめて効果的です。そのためこのような地域では、現在でも盛んに物理的心霊現象が引き起こされています。一方、欧米や日本などの先進国、特に心霊先進国においては物理的心霊現象は時代遅れとなり、主流の座を「精神的心霊現象」や「スピリチュアル・ヒーリング」に譲って、ほとんど見られなくなっています。

「物理的心霊現象」に対する真の理解とは

これまで繰り返し述べてきましたが、スピリチュアリズムにおける心霊現象現出の主役は霊界人です。霊界の人々（高級霊たち）が意図的・計画的に働きかけなければ、心霊現象は存在しません。スピリチュアリズムの初期に頻出した驚異的な「物理的心霊現象」もすべて、霊界人によって引き起こされたものであり、それを演出した高級霊の意図を知らなければ、真の意味で物理的心霊現象を理解したことにはなりません。

現在も多くの人々が心霊現象に大きな関心を寄せていますが、彼らの意識は目に映る現象の不思議さだけに向けられています。関心の的は地上の霊媒・霊能者であって、霊界サイドに現象発生の原因があることには考えが及んでいません。単なる好奇心のレベルにとどまっているのです。

これまでスピリチュアリズムの初期に発生した心霊現象を扱った書物は数多くありましたが、その大半は地上サイドから現象を観察した記述に終わっています。心霊現象を引き起こした霊界人の立場から説明したものは、ほとんどありません。しかしスピリチュアリズムの「高級霊界通信」は、心霊現象を演出する霊たちの意図や働きかけの実態を明確に伝えています。心霊現象が発生する際、霊界サイドではどのようなことが行われているのかを詳細に述べています。

地上サイドではなく「霊界サイドの視点に立って心霊現象を理解する」ということは、霊界人の意図や働きかけの実態を知ることに他なりません。スピリチュアリズムの「心霊現象論」が他と違っているのは、霊界サイドの観点から心霊現象を眺めるところにあります。スピリチュアリズムは、人類史上初めて「心霊現象」に関する本質的な理解を可能にしたのです。

「物理的心霊現象」の霊界サイドの演出者

物理的心霊現象は、高級霊が計画を立て、それを下層の霊たちに実行させるという霊界サイドの働きかけによって演出されます。高級霊が直接、物理的心霊現象を引き起こすようなことはありません。スピリチュアリズムの心霊現象は、すべて高級霊の統制下で演出されますが、計画を立てる者と現場で実行する者は別です。分業体制のもとで連携して、組織的に地上に働きかけるのです。現場で物理的心霊現象の演出に携わる霊は、幽界の下層にいる“未熟霊・低級霊”です。死後、さほど時間がたっていないために地上臭を拭い去れない霊や、未熟さゆえにいつまでも霊的自覚が持てずに地上世界と縁が切れない霊たちです。彼らは地上的意識に縛られているため、純粋な霊的存在になれないのです。

「物理的心霊現象」という物質的要素が多い現象を発生させるためには、地上臭を残した“未熟霊・低級霊”が打ってつけです。彼らは高級霊と違って直接、地上世界に働きかけることができます。高級霊は、地上人に「霊魂の実在」を教えるために、こうした霊たちを利用して計画を進めてきました。幽界下層に留まっている霊たちを、霊界サイドの末端の職人として活用してきたのです。未熟霊・低級霊は高級霊の指示に従って行動するように統制されており、自分勝手な振る舞いは許されません。

利用される霊たちの多くは、自分が“スピリチュアリズム”という歴史的大事業に参加していることを自覚してはいません。その事実を知らないまま大計画の末端の役割を担当し、現場の職人として地上世界に働きかけているのです。そしてそれを通して人類のために貢献し、自らのカルマを償う道を歩むことになります。

種々のエネルギーを活用して発生する「物理的心霊現象」

心霊現象はすべて「霊的エネルギー」を活用することで発生しますが、純粋な霊的エネルギーでは地上に影響力をもたらすことはできません。そこで、地上に働きかけやすいエネルギーを持っている“未熟霊・低級霊”を利用することになります。高級霊は、幽界下層に留まっている未熟霊の霊的エネルギーと、地上の霊媒（霊能者）の生体エネルギーを同時に活用して、さまざまな物理的心霊現象を引き起こします。未熟霊の「霊的エネルギー」と「幽質素」、地上の霊媒の「生体エネルギー」と「幽質素」を用いて合成したものが、物理的心霊現象の材料となるのです。それが、しばしば話題を巻き起こしてきた“エクトプラズム”という特殊な「半物質・半幽質」です。

ほとんどの物理的心霊現象には、エクトプラズムが使用されます。物理的心霊現象とエクトプラズムは、切っても切れない関係にあるのです。「物理的心霊現象」のメカニズムを理解するためのキーワードは“エクトプラズム”です。エクトプラズムについては、この後で詳しく説明していきます。

物理的心霊現象の地上サイドの演出者――「物理霊媒」

大半の地上人は、心霊現象は霊媒が引き起こしていると思っていますが、それは正しい理解ではありません。表面的・一面的な認識にすぎません。スピリチュアリズムの初期に頻発した「物理的心霊現象」はすべて、霊界の高級霊によって計画的に演出されたものです。高級霊が決定しなければ、驚異的な物理的心霊現象が発生することはありませんでした。奇跡的ともいえるスピリチュアリズムの心霊現象の主役は、どこまでも霊界の高級霊たちです。

とは言っても「霊媒」という地上サイドの道具がなければ、心霊現象を引き起こすことはできません。地上の霊媒（霊能者）は、心霊現象を発生させるために不可欠な存在なのです。

物理的心霊現象を引き起こすことができる霊能者を「物理霊媒」と言います。心霊研究が盛んに行われたスピリチュアリズムの初期には、歴史に名をとどめることになる優れた霊媒が数多く輩出しました。Ｄ・Ｄ・ホーム、デスペラント夫人、フローレンス・クック、ユーサピア・パラディーノ、エバ・Ｃなどが代表的な「物理霊媒」です。彼らはいずれも目を見張るような「物理的心霊現象」を引き起こし、それが写真に収められ、証拠として現代に残されています。

物理霊媒になる人間の共通性は、霊体と肉体をつなぐ「中間物質（幽質素）」を多く持っているということです。このため大量の“エクトプラズム”をつくり出すことができるのです。これが一般の霊能者と物理霊媒の大きな違いです。