「霊聴現象」の特色

通常、肉眼では見えない対象を、霊体の霊視能力で認識する現象が「霊視」や「透視」です。一方、肉体の耳（聴覚器官）では聞くことができない“声”や“音”などを認識する現象もあります。これが「霊聴現象」です。世の中には“霊の声を聞く”と言う人間がいます。また憑依状態に陥っている人間も、決まって“霊の声が聞こえる”と言います。

歴史的には、ジャンヌダルクの「霊聴現象」がよく知られています。彼女は、霊界からの声（＊「天使の声」ということになっています）を聞き、フランスを救うことが自分の使命であると悟りました。その後、難局に遭遇すると天（霊界）から声が聞こえ、それに導かれてイギリス軍に包囲されたフランス王家の拠点・オルレアンを解放することになりました。もう一人、歴史的によく知られた人物がいます。古代ギリシアの哲学者、ソクラテスです。彼はしばしば、ダイモンという霊からの声を聞いていました。それが書物（＊プラトン著『ソクラテスの弁明』）の中に記されています。

「霊聴」は、霊体に備わっている霊能力によって発生します。霊視力にサイキック・レベルのもの（サイキック霊視力）とスピリチュアル・レベルのもの（スピリチュアル霊視力）があるように、「霊聴能力」にもそれぞれのレベルのものがあります。「サイキック・レベルの霊聴能力」では、地上人の声を聞くだけですが、「スピリチュアル・レベルの霊聴能力」では、霊界にいる“霊の声”を聞くことができます。

「霊聴」によって、霊視では得られなかった霊的情報を人々にもたらすことができるようになります。優れた霊能者は、霊視能力と霊聴能力を同時に用いて、他界したばかりの“霊”の様子を地上の遺族に正確に伝えることができます。それによって遺族は、間違いなく愛する人が今でもあの世で生き続けている事実を確信するようになります。霊界の“霊”が地上人の視覚を用いてメッセージを伝えること（霊視現象）はある種の霊界通信と言えますが、霊聴によってメッセージを伝えることも、同じく一種の霊界通信と言えます（＊ただし、本格的な「霊界通信」は高度な霊的知識・霊的思想を伝えることを目的としているのに対して、霊視や霊聴による霊界からの通信は、他界した人間の様子や身元を証明するといった目的のために用いられます。もたらされる情報量も、本格的な霊界通信とは比べものにならないほどわずかです。この意味で「霊視現象」や「霊聴現象」は、正式な霊界通信とは言えません。「霊界通信」については、次章（４）で詳しく取り上げます）。

「霊視能力」と「霊聴能力」の関係

霊視と霊聴を同時に行うことができるとするなら、霊視だけの場合よりも霊的な情報量は一気に増大します。より正確で詳細な情報を入手することができるようになります。視覚だけでは理解しにくい内容も、聴覚が加わることによって正確さが増すようになるのです。霊界ではすべての霊が「霊視能力」と「霊聴能力」を同時に発揮して、相手の内容を正確・詳細に認識しています。しかし肉体に包まれた地上人の場合は、どんなに優れた霊能者であっても、霊界人の何十分の一、何百分の一の情報を認識しているにすぎません。

霊能者としては、「霊視能力」と「霊聴能力」の両方を持っていることが理想です。歴史に名を残したような優れた霊能者は、霊視能力と霊聴能力を同時に発揮しています。しかし実際にはそうした理想的なケースは稀で、どちらか一方の能力だけを持っているという霊能者が大半です。肉体に包まれて大きな制約を受けている地上人にとって、霊界人と同じように霊能力を発揮することは不可能なのです。

地上の霊能者は「霊視能力」と「霊聴能力」の関係によって、次のような５つのタイプに分類できます。１つ目のタイプは、「霊視能力と霊聴能力の両方を持っている」という霊能者です。このタイプの霊能者は霊視と霊聴が可能で、霊の姿を見ると同時に霊の声を聞くことができます。ただしこの場合でも、それぞれの霊能者によって霊視や霊聴の程度は異なります。２つ目のタイプは、「霊視能力だけを持っている」という霊能者です。このタイプの霊能者は、霊視によって霊の姿を見ることはできても、霊聴はできません。３つ目のタイプは、「霊聴能力だけを持っている」という霊能者です。彼らは、霊聴によって霊の声を聞くことはできても、霊の姿を見ることはできません。

４つ目のタイプは、「透視能力だけを持っている」という霊能者です。こうしたサイキック・レベルの霊能者は、遠く離れた所にいる地上人の姿を見ることはできても、霊界の霊の姿を見ることはできません。言うまでもなく、霊の声を聞くこともできません。５つ目のタイプは、同じく「サイキック・レベルの霊聴能力だけを持っている」という霊能者です。彼らは、霊の姿を見ることも霊の声を聞くこともできません。たまに遠く離れた所にいる地上人の声を聞くことができるという程度です。

サイキック･レベルの霊視力（透視能力）を持っている霊能者で、霊の声を聞くこと（霊聴）もできるというケースは、ほとんどありません。霊視力をスピリチュアル･レベルにまで引き上げ、「本当の霊視能力」を発揮できる霊能者でなければ「霊聴能力」を持つことはできないのです。「霊視能力」と「霊聴能力」は、スピリチュアル・レベルの現象という点で共通しています。ともに霊界からの援助や協力によって得られる能力です。したがって「スピリチュアル･レベルの霊視能力」を持った人間であってこそ、同時に「霊聴能力」を持つことが可能となるのです。

以上のさまざまなケースを整理すると、次のようになります。

心霊現象に関心を持つ大半の人々が、霊視とは“霊の姿”を見ること、霊聴とは“霊の声”を聞くことであると単純に考えています。私たちが目で見たり、耳で聞いたりするのと同じようなものだと思っています。しかし実際には、霊視や霊聴には想像もつかないような複雑な状況がともなっています。霊体の霊聴力で霊の声を聞くことが「霊聴現象」であるという説明は正しいのですが、現実にはそれはきわめて複雑なメカニズムによって発生しているのです。

次にその「霊聴現象」のメカニズムについて見ていきます。

「霊聴現象」では、どのようにして“霊の声”が聞こえるのか

霊聴能力が十分に発揮されているときには、地上の人間の声と同じように、はっきりと“霊の声”を聞き取ることができます。まるで、目の前にいる地上人から話しかけられているかのようです。人（霊能者）によっては、自分の内部（腹や脳）にラジオやテレビがあって、そこから“霊の声”が聞こえるような感じがすることもあります。また、自分の腹（太陽神経叢）から声が聞こえてくるような気がする人もいます。耳で声を聞くのではなく、身体の内部から声が聞こえてくるのです。あるいは、自分の耳の中で、霊が話しかけているように聞こえる人もいます。このように“霊の声”の聞こえ方は、さまざまです。

しかし、霊聴能力が十分に発揮されているときには「霊の声が鮮明に聞こえる」という点では共通しています。一方、霊聴能力が不十分なときには、小声でささやいているように聞こえたり、口をマスクなどで覆って話しかけているように聞こえます。また、感度の悪い電話で声を聞いているように感じることもあります。

霊的感覚が異常に敏感になっている人（霊媒体質者）の場合には、至る所から霊の声が聞こえてくるようなことが起こります。また、多くの霊が次々と話しかけてくるようになることもあります。憑依状態の初期には、霊聴現象によって低級霊の声が聞こえてきたり、さまざまな雑音妨害や嫌がらせを受けるようになります。何十人もの低級霊が一斉に大声をあげたり、罵声を浴びせるといった事態が生じることがあるのです。一般の人にはない“霊の声”を聞く能力を持った人間には、しばしばこうした困った問題が付随することになります。

霊界と地上界のコミュニケーションの違い――言葉とテレパシー

霊界についてある程度の知識を持っている人なら、霊界には地上のような言葉はないことを知っています。しかし、霊聴現象では実際に“霊の声”が聞こえます。この事実を、いったいどのように考えたらよいのでしょうか。これまで霊聴現象とは、“霊の声”を霊能者の「霊聴能力」によってキャッチすることであると単純に説明してきましたが、実はそれだけでは不十分です。霊聴に関する重要な要素の半分が抜け落ちています。

「霊聴」について正しく理解するためにはまず、音や言葉について正しく知っておく必要があります。音は物質の振動によって発生し、それが空気中を伝わって相手に届き、音として認識されます。地上人は、こうした音によって相手に思いや考えを伝えます。これが音声言語・話し言葉です。

一方、霊界には空気も物質もありません。したがって霊界には、地上のような音や音声は存在しません。それでいて霊同士が緊密なコミュニケーションを取っています。霊界では、言葉を用いてコミュニケーションを取ることはありません。心の中で考えていることが“テレパシー”という方法で瞬時に相手に伝わるのです。地上では思いを言葉にし、その言葉を発して（声に出して）相手に伝えます。そして相手がその言葉の意味を理解して初めて、自分の思いが伝わるようになるのです。

テレパシーによる霊界でのコミュニケーションでは、地上のような複雑なプロセスは必要ありません。自分の思いを言葉にし、その言葉を発すること、相手が言葉を受け取り、その意味を理解すること――こうしたプロセスのすべてが省略されるのです。霊界では、自分の思いやイメージやメッセージを相手に伝えたいと意識するだけで、それが瞬時に伝わります。心の内容がストレートに相手に伝わるため、言葉を用いる必要は全くありません。霊界では“テレパシー”によって綿密にコミュニケーションを取り、お互いを理解し合っているのです。

霊界には、言葉は存在しません。言葉はなくても心の内容がストレートに伝わるため、外国人とも自由にコミュニケーションを取ることができます。“テレパシー”によるコミュニケーションは、言葉を用いた方法とは比べものにならないほど便利です。時間もかからず、正確に伝わります。言葉の間違いによる不理解も生じません。

すでに述べたように、音や声は物質の振動によって発生するものであって、はるか彼方にまで届くことはありません。しかも、音は１秒間に300メートルほどしか進まず、相手に伝わるまでに一定の時間がかかります。霊界には地上人が用いているような言語や言葉はありませんが、「霊聴現象」では“霊の声”が聞こえます。言葉を用いてはいないはずの“霊の声”が、確かに聞こえるのです。これは、いったいどういうことなのでしょうか。

「霊聴現象」のメカニズム

霊界では、言葉を用いずにコミュニケーションが成立しています。しかもお互いが、心の内容を詳細に認識し合っています。言語や言葉を用いない霊界においてコミュニケーションが可能となっているのは“テレパシー”という手段があるからです。「霊聴現象」の根底には、この“テレパシー”が存在します。テレパシーなくして霊聴現象は発生しません。ここでは「霊聴現象」のメカニズムを、「テレパシー現象」と合わせて説明していきます。

霊界では、地上世界のような言葉も音声も不要です。相手のことを思い、伝えたい内容をイメージするだけで、瞬時にそれが相手に伝わります。霊は地上の霊能者に対して、こうした“テレパシー”によって話しかけます。ここではテレパシーによる働きかけを“話しかける”と表現しましたが、地上のような言葉を用いるのではありません。テレパシーで話しかける際の“言葉”とは、霊の思いやイメージやメッセージのことであって、それが瞬時に相手に伝わるのです。地上とは違って霊界での言葉とは、霊が伝えたいと思っていること・霊の心の内容そのものなのです。

そうした霊の言葉を、地上の霊能者の「潜在意識（霊の心）」がキャッチします。霊的世界と地上世界との境界には多くの“テレパシー”が飛び交っていますが、大半の地上人は受信能力が乏しいため、それをキャッチすることはできません。そうしたものがあることさえ、気がついていません。霊能者（霊聴能力者）は“テレパシー（思念言語）”をキャッチする能力に優れています。そして特定の霊が自分に向けて発する言葉（テレパシー）を受け取ります。これは霊界では当たり前のことなのですが、地上では霊聴能力者にしかできません。

とは言っても「霊聴現象」は、霊の言葉（思念・イメージ）をキャッチするだけで成立するものではなく、その言葉を言語化しなければなりません。言葉になっていないものを言葉に換える必要があります。それを霊能者の「潜在意識」がするのです。霊からのテレパシーをキャッチすると、潜在意識は自動的に霊の言葉の翻訳（言語化）に取りかかります。霊能者の潜在意識内にある文法や単語を用いて、霊の思念やメッセージを文章の形にしていきます。しかし、これが非常に困難な作業なのです。そうしたとき霊界から援助の手が差し伸べられ、さまざまな手法を用いて言語化が進められます。

ここまでのプロセスが成功すると、次はそれを霊能者の“脳”に送り込む作業が待っています。言語化された霊の言葉が“脳”に伝わると、顕在意識化がなされます。そうして初めて、霊能者は霊の思念やメッセージを言葉として理解することができるようになります。「霊の声が聞こえた」ということになるのです。

霊聴現象のメカニズムを、もう一度整理します。霊から“テレパシー”によって送られてきた心の内容（思念・イメージ）を霊能者の「潜在意識（霊の心）」が受け取り、それを言語化します。霊能者の潜在意識内にある言語の材料を用いて、霊の心の内容を霊能者が使用する言語に転換・翻訳します。その際、霊界の霊は、言語化のプロセスがスムーズに進むように協力します。それがうまくいくと、言語化したものを霊能者の“脳”に送り込み、顕在意識化して霊能者が理解できるようにします。こうして霊の思念やイメージが、霊能者に“言葉”として認識されることになるのです。この一連のプロセスが「霊聴現象」のメカニズムです。

霊聴現象とは、一般的には「霊界の霊の言葉を聞くこと」と考えられていますが、そこにはこうした３段階にわたる複雑なプロセスがあるのです。「霊聴」として霊能者が聞いた言葉の内容（中身）は霊のものですが、それを表現する言葉は霊のものではなく、霊能者自身のものなのです。霊の思念やイメージを、霊能者の言葉を用いて表現したものが「霊聴」ということです。霊は伝えようとする思念やイメージを送るだけで、文章や単語まで送っているわけではありません。「霊聴能力」とは「霊の言葉を聞く能力」のことですが、もっと具体的に言えばそれは、霊からのテレパシーを受け取る能力と、受信した内容を言語化する能力と、言語化した情報を脳にまで送って顕在意識化する能力をトータルしたものなのです。

「霊聴現象」と「テレパシー現象」の関係

霊聴現象のメカニズムを知ると、霊聴現象には“テレパシー”が不可欠な要素であることが分かります。テレパシーという現象がなければ、霊聴現象は成立しません。ある意味で霊聴現象とテレパシーは一体不可分の関係、ワンセットの関係にあります。ここでは霊聴現象とテレパシーの関係を、「霊同士のコミュニケーション」「霊と地上人のコミュニケーション」「地上人と地上人のコミュニケーション」の３つのケースから見ていきます。

霊界では、霊と霊のコミュニケーションはすべて“テレパシー”によって行われます。思うことが、すべてストレートに瞬時に相手に伝わります。そこには、コミュニケーションのミスや間違い・不完全さといった問題は一切ありません。相手のことを意識するだけで、その瞬間に自分の思いが相手に正確に届きます。霊界では“テレパシー”がすべてであって、「霊聴」はその中に含まれています。「霊聴」は、テレパシーの一部分になっているのです。

霊界の霊と地上人の間のコミュニケーションとは、これまで述べてきた「霊聴現象」のことを意味します。霊が地上人に心の内容（メッセージ）を伝えようとするとき、いったんそれを“テレパシー”によって霊能者の「潜在意識（霊の心）」に送ります。そこで内容を言語化し、さらにそれを“脳”に送って顕在意識化します。こうしたプロセスを経て、霊の思念（メッセージ）が地上の霊能者に伝わるようになるのです。「霊聴現象」では、通信を送る霊が他界して間もない場合には、自分の思いを地上の霊能者に送ると、霊能者の「潜在意識」がすばやく翻訳（言語化）します。霊に地上的要素が多い分、言語化と顕在意識化のプロセスには手間がかかりません。「潜在意識」による翻訳（言語化）はスムーズに進み、それほど苦労せずに顕在意識化が可能となります。しばしば、死んで間もない霊からのメッセージが届けられるのは、こうした背景があるからです。

地上人と地上人の間にも「霊聴現象」が発生します。この場合は「サイキック･レベルの霊聴現象」ということになります。遠く離れた地上人との間で、テレパシーによる交信が可能となるのです。ただし受け取る側に「霊聴能力」がなければ、テレパシーの内容は全く認識できません。この種のコミュニケーションの成功・失敗は、受け手となる地上人に霊聴能力があるかどうかによって決定されます。

勘違いしてはならないのは、地上人同士であっても、音の波動にすぎない言葉がそのまま遠方に届くわけではない、ということです。物質が遠方に、しかも瞬時に届くというようなことは「物理法則」に反します。地上人の思い（心の内容）は“テレパシー”という形で、遠く離れた所にいる相手（地上人）に届くのです。

このように地上人同士の間にも、「テレパシー現象」は発生します。相手の潜在意識がメッセージをキャッチすると、その後のプロセスは、これまで述べてきた「霊聴現象」の場合と同じように進みます。テレパシーによって送られてきた思念を、受け取った人間の「潜在意識」が言語化し、さらにそれを“脳”に送って顕在意識化します。このプロセスがすべてうまくいくと、「遠方にいる地上人の思いが“声”として聞こえた」ということになります。地上人同士の場合でも、このプロセスは一瞬の間に行われます。

以上の３つのケースを図示すると次のようになります。

霊聴現象とは、霊界にいる霊や遠方の人間の声を聞くという現象ですが、それは“テレパシー”が重要な要素となっています。テレパシーなくして霊聴現象は存在しません。テレパシーは霊体に備わっているコミュニケーション能力で、肉体にはない霊体特有の能力です（＊“テレパシー”については、この後で詳しく説明します）。