１）原初的な霊界通信

霊界の“霊”が自分の意思を地上人に伝えるために、しばしば「ラップ音」を発生させます。これが「ラップ現象」です（＊ラップ現象については、（１）物理的心霊現象の１）ラップ現象で詳しく取り上げています）。このラップ音を用いて、霊界と地上界の交信が可能になるのではないかと考えたのが、18世紀の米国人ベンジャミン・フランクリン（※）でした。

当時は、両世界の住人がすぐに交信できるようになると思われていましたが、ラップ交信には問題がありました。霊界の邪悪霊・低級霊が盛んにラップ交信に介入してくるという問題です。さらには交信するために霊が地上近くに降りてくると、物質世界の雰囲気に影響され地上時代の習慣や宗教的信条が喚起されるという問題も生じました。そのためラップ交信は、霊界側によって中止されることになります。

ラップ現象は古くから存在していましたが、ラップ通信の歴史はそれほど古いものではなく、近代１８世紀に始まりました。それ以前には、霊界から地上界への交信は霊的な方法（霊聴・テレパシー・霊媒現象など）で行われており、霊はラップ音のような物的手段を用いる必要はありませんでした。人間が物質的になり霊能力を後退させていくと、それにともない霊的な交信方法が使えなくなりました。そのため、ラップ通信という物質性の高い通信方法が霊界サイドによって発明されることになったのです。

一般的には、ラップ通信はフランクリンによって考案されたということになっていますが、そうではありません。実はそれに先立って、霊界サイドでラップ交信の発明がなされていたのです。フランクリンは霊界からのインスピレーションによってラップ交信のアイディアをキャッチしただけなのです。

地上のスピリチュアリズムの出発点となったフォックス家事件は、ラップ現象から始まりました。フォックス家の人々はこの時、誰もいない空間から発せられた叩音（ラップ音）が “霊”からのシグナルであることに気がつきました。そして地上から“霊”に向けて質問をし、その答えをラップ音で返してもらうという形で通信が試みられました。質問の答えがイエスならば１回、ノーならば２回のラップ音を鳴らすというルールを決め、霊界にいる“霊”に地上側から次々と質問しました。こうして霊界人と地上人の間にシンプルな交信が成立したのです。しかも交信内容の正しさが、その後の物証（＊死体の骨の一部と髪の毛）の発見によって確認されました。

このフォックス家事件がきっかけとなり、交霊会で“霊”から情報を聞き出すことが大流行するようになりました。ところが、霊媒が指の関節を鳴らしてニセのラップ現象を演出するような問題が発生し、“霊”からの通信は「テーブルラップ（テーブルターン）現象」に移行するようになりました。これはエクトプラズムを用いてテーブルを空中に浮き上がらせ、このテーブルの脚で床をたたいて地上人の質問に答えるというものです。このテーブルラップ現象によって、ラップ音が指の関節を鳴らしたものだという疑いは払拭されることになりました。

しかしこの方法では、霊界から十分な情報やメッセージを伝えることはできません。霊界人にとって、テーブルラップ現象は情報伝達の手段としてはあまりにも不便でした。そこで霊界側はより効果的な通信方法を提案してきました。それが「プランシェット」や「ウィッジャ盤」を用いた方法だったのです。

「プランシェット」とは、フランス語で“小さな板”を意味します。ハート型をした小さな板の下部に、２つの小輪と滑りのいい筆記用具（ペンなど）を取り付けたものがプランシェットです。地上人がハート型の板の上に手を置いて精神を統一すると、霊が地上人に働きかけます。すると板がひとりでに動き出し、簡単な図形や文字などが描かれます。霊はこのプランシェットを用いることによって簡単なメッセージが伝えられるようになりました。プランシェットによる通信は、自動書記通信に至る前段階の霊界通信、原初的な自動書記通信と言えます。自動書記では霊媒が筆記用具を手に持ち、霊媒の潜在意識を支配した霊が、霊媒の腕と筆記用具を用いて通信文を書きます。プランシェットはこの霊媒の腕に相当し、自動書記では不要となります。

「ウィジャ盤」はアルファベットと数字を記した滑らかな盤で、その上に小さな三脚指示器や逆さにしたグラスを置きます。地上人が三脚指示器やグラスに手を置くと、霊が働きかけてこれらを動かします。三脚やグラスの動きが止まったところに記してある文字が、霊が指示する文字になります。こうして次々と指示された文字を並べていくと、メッセージ（通信文）ができ上がります。プランシェットの場合、それ自体が移動して図や文字を書いていくのに対して、ウィジャ盤では三脚やグラスがタイプライターのように一つ一つの文字を指示して通信文を作成していきます。

スピリチュアリズムの初期には、こうした現象の不思議さと人々の好奇心があいまって、プランシェットやウィジャ盤を用いた交霊会が大流行しました。そうした原初的な霊界通信は次第に、よりシンプルで洗練された「自動書記」という通信方法に進化していきます。

スピリチュアリズムの初期に起こった欧米の心霊ブームは、それほど時を置かずして日本にも押し寄せることになりました。明治時代の中頃（明治１６～１７年）、アメリカからプランシェットやウィジャ盤が伝わり、それらを用いた交霊法が日本風にアレンジされて「コックリさん」として日本中で大流行することになりました。この動きは欧米における交霊会の大流行と軌を一にしたものでした。その後コックリさんは、何度かの流行の波を経て、現在では占いの一つとして若者の中で静かなブームとなっています。

このように日本のコックリさんは、元をたどれば欧米の初期スピリチュアリズムのプランシェットやウィジャ盤を用いた交霊会に遡ります。コックリさんの原型は、欧米の簡易交霊法です。コックリさんは、それを日本人向けにアレンジしたものなのです。ただし日本のコックリさんと欧米の簡易交霊法には、大きな違いがあります。欧米の交霊法は、通信の対象を霊界にいる霊・霊魂としています。それに対してコックリさんは、通信対象を日本伝統の憑き物信仰の流れの上で考えています。「コックリさん（狐狗狸さん）」は、その名称が示しているように人間の霊ではなく、動物霊や異界の存在やお化けなどを想定しているのです。

最近ではコックリさんを“エンゼルさん”とか“キューピットさん”などのようなモダンな名称で呼ぶこともあります。欧米で交霊方法として流行したものが、日本では占いの一種・手軽な託宣方法として、ほとんど遊び感覚で行われています。

１９世紀後期はプランシェットやウィジャ盤を用いた交霊会が欧米社会に大流行し、心霊ブームが嵐のように巻き起こりました。その一方でこうした動きと平行して、物理霊媒を用いた凄まじい物理的心霊現象が霊界によって次々と演出されました。この時代の欧米社会は、きわめて特異な雰囲気の中にあったのです。近代科学が隆盛し、唯物論が知識人や科学者の常識となりつつあった時代にあって霊との交信は、科学に対する重大な挑戦となります。当然、プランシェットなどを用いた交霊に対して批判的な声があがるようになりました。

最初はプランシェットやウィジャ盤に起こる現象を、霊媒の意図的な詐欺であるとか、参加者全員による集団詐欺であるというような単純な理由をつけて非難していました。やがてより科学的な理由をつけて攻撃するようになります。スピリチュアリズムが「霊魂説」を根拠に、そうした現象を霊との交信であると主張するのに対して、批判者は霊の存在とは無関係に発生する現象であると主張しました。その根拠が潜在意識の作用説であり、集団的な自己催眠作用説でした。

交霊説に批判的な見解は、コックリさんを巡って当時の日本国内でも唱えられました。その代表が井上円了によるものです。円了はコックリさんを、霊が関与する心霊現象ではなく、暗示作用や思い込みによる無意識の筋肉運動と考えました。

「プランシェット」や「ウィジャ盤」を用いた交信、それらの変形版である日本の「コックリさん」は、いずれも霊界の“霊”が関与して起こされる心霊現象です。これらの現象をすべて暗示作用・潜在意識の作用・無意識の筋肉運動であるとする解釈は間違っています。原初的な霊界通信は、低次元であっても間違いなく霊界の“霊”からの反応なのです。

人類の歴史の中で、霊界の“霊”と積極的に交信を試みただけでなく実際に霊との交信を成立させたことは、原初的な霊界通信が登場するまでありませんでした。そこに原初的な霊界通信の意義と価値がありますが、同時に、これらの通信方法には決定的とも言える大きな欠陥も内包されています。霊界の“霊”と交信するという点では確かに画期的であり大いに意義があるのですが、それを帳消しにしてしまうような本質的な欠陥が原初的な霊界通信にはあるのです。

その欠陥とは、原初的な方法で霊界から通信してくる“霊”のほとんど（９９％以上）が邪悪霊・低級霊の類であるということです。きわめて程度の悪い、霊性の低い霊が原初的な霊界通信の主役・通信霊なのです。地上人は好奇心や軽い遊び心から原初的な霊界通信を行いますが、邪悪霊はそれを利用して地上人に悪事を働きます。安易に霊と交信しようとすることは、きわめて有害であり危険なことなのです。

スピリチュアリズムは地上に霊的真理をもたらし、人類を真の幸福に導くために計画されました。霊界通信はそのための重要な手段です。邪悪霊に支配された霊界通信では、スピリチュアリズムの高尚な目的を達成することはできません。本物の霊界通信は、霊性と知性に恵まれた高級霊が通信霊（主役）となるものに限られます。ここにおいて通信霊の見極めがきわめて重要になります。本当の霊界通信、スピリチュアリズムの目的にかなう霊界通信が地上にもたらされるには、地上サイドによる通信霊の選別が不可欠の条件となるのです。