６）霊感書記現象（テレパシー式霊界通信）

霊界通信の中でも異色なものが「霊感書記（テレパシー式霊界通信）」です。２章の精神的心霊現象では、テレパシーについて説明しました。テレパシーとは人間の霊体に備わっているもので、霊的世界で使用される通信能力のことです。霊界では地上世界のように、文字や音声を用いてコミュニケーションする必要はありません。テレパシーによって“思い”がそのまま相手に伝わります。霊界では、完璧な正確さで以心伝心が行われるのです。

霊体にはさまざまなサイキック霊能力が備わっていますが、テレパシーはその一つです。地上人の場合は他の霊能力と同様、肉体が障害になって思うようにテレパシー能力を発揮することができません。しかし地上人の中にはまれに、肉体を持ちながらもテレパシー能力を発揮できる者がいます。テレパシー能力には、通信を送る能力と、通信を受ける能力の２種類があります。受信用のテレパシー能力を持った者は、他人の思いをキャッチすることができます。そして地上人ばかりでなく、霊界にいる“霊”の思いも受信することができます。

「霊感書記現象」は、霊界にいる“霊”がこうしたテレパシー受信能力の強い地上人（霊媒）を利用して行う霊界通信です。霊は霊媒に向けて霊界から思念・イメージを送ります。霊界からの思念を受信した霊媒は、それを地上の言葉に翻訳して文字で記します。これが「霊感書記」すなわち「テレパシー式霊界通信」です。

ひらめきや心に突如思い浮かんだアイディアを意味するインスピレーションという言葉が世の中ではよく用いられます。このインスピレーションは、実は霊界からテレパシーで送られてきた“観念・思念”のことなのです。霊界の霊から伝達される思念は“霊感”と言われますが、霊感こそインスピレーションの実体なのです。これ以外にもインスピレーションには、本人の潜在意識内の観念が顕在化したものがあります。普段考えもしなかったようなアイディアが湧き上がることがありますが、それはもともと潜在意識の中にしまわれていたものです。インスピレーションにはこのように２種類ありますが、重要なのは前者のインスピレーション、すなわち霊界の“霊”からの思念がテレパシーによって伝達された“霊感”です。

霊界から送られてきた思念を一瞬にして感じ取るものがインスピレーション（霊感）です。実際には、かなりの地上人がインスピレーションを受けています。しかしそれが瞬間の出来事であるため、ほとんどの人は気のせいぐらいにしか考えません。地上人はそれぞれの守護霊の導きを受けていますが、守護霊から地上人へのテレパシーは日常生活の些細なことに関しても送られています。どこかに行こうと思ったとき、その方向に危険が予想される場合は、守護霊はインスピレーションを送ってそこへ行かせないように仕向けます。「なんとなく行きたくない」「何か悪いことが起きそうな気がする」といった思いを浮かび上がらせて、危険を回避させようとします。また普段考えてもみなかったようなアイディアが突然思い浮かぶことがありますが、それにもしばしば霊界からのインスピレーションが関係しています。このように日常生活の中で、誰もが無意識のうちに大なり小なりインスピレーション（霊感）の指示を受けています。

作家や画家、音楽家の作品にインスピレーションが大きな影響を及ぼしていることはよく知られていますが、一般の人々も霊界からのインスピレーションとかかわりを持っているのです。とは言っても毎日を忙しく過ごしている人は、なかなかインスピレーションを感じ取ることができません。インスピレーションは、肉体による束縛が弱まって魂が自由になると受け取りやすくなります。そのためスピリチュアリズムでは、瞑想や祈りの時間を持つように薦めてきました。一日に一回でも、一人静かな時間を設けて霊的な交わりを持つことによって霊界の導きを強く受けられるようになるからです。

以上がインスピレーションの説明ですが、インスピレーションとテレパシー式霊界通信には密接な関係があります。霊界の通信霊が思念や長いメッセージを意識的に地上の霊媒（霊能者）に送ろうとするものが「テレパシー式霊界通信（霊感書記）」です。インスピレーションでは瞬間的に思念伝達されるだけですが、その思念伝達を長時間にわたって行い、大量・長文のメッセージを通信しようとするものがテレパシー式霊界通信なのです。すなわちインスピレーションを圧倒的に大規模化したものが、テレパシー式霊界通信（霊感書記）ということなのです。

かなり多くの地上人が、インスピレーションによって霊界から通信を受けています。しかしそれが瞬間的出来事であるため、単なる気のせい、自分の思い込みであると考えてしまいます。その一方で、テレパシーやインスピレーションに強い関心を持っている地上人は、自分の考えにすぎないものまでインスピレーションに結び付けてしまいます。自分自身の思考を、何もかもインスピレーションであると思い込もうとするのです。霊的なものに異常に関心を持つ人は往々にして自己顕示欲が強く、自分を特別な者と考える傾向があります。そして自分の思いにすぎないものを、霊界から送られてきたメッセージと決め付けるのです。

霊界の“霊”にとってテレパシーは、最も手間がかからず、しかもエネルギーの消費が少ないきわめて効率的な通信方法です。膨大なエネルギーを費やしてエクトプラズムの発声器やエンピツを握る手をつくる必要がありません。オーラの融合によって霊媒の潜在意識を支配するといった面倒なことをせずにすみます。霊界の霊にとって、テレパシー式通信は最も都合のよい方法なのです。しかしこの方法にはいま見てきたように、霊界から送られる通信内容と、地上人の考えの区別がつけにくいという決定的な欠点があります。

テレパシー式霊界通信にはさらに大きな問題があります。それは、霊媒が霊界から受けたイメージを地上の言語に翻訳する際に、霊媒が持っていた観念によって濃厚な脚色がされてしまうという問題です。霊界からの通信は、地上の言語ではなく“思念”という霊界共通の言語によって霊媒に伝えられます。すなわち地上の霊媒は、通信内容を言語ではなく“イメージ”で受け取るのです。霊媒の役割は、そのイメージを地上の言語に翻訳することです。霊媒に十分な語彙と表現能力が無ければ、イメージを正確に地上の言語で表現することはできません。また霊媒に特定の宗教や思想へのこだわりがあると、それが通信を色づけするようになってしまいます。こうして霊界からの通信は大きくゆがめられてしまうことになります。時には霊界からの通信内容とは似ても似つかぬような翻訳になることもあります。

正確な翻訳ができるかどうかは、ひとえに霊媒の霊能力・霊性・精神性・知性・人間性にかかっていますが、こうした条件をすべて備えた人間はめったにいません。ということは現在の「テレパシー式霊界通信」のほとんどが信頼できない、信憑性が低いということになります。そのため、スピリチュアリズムでは「入神談話」や「自動書記」による霊界通信が主流になりました。どちらの通信方法も霊媒の潜在意識の混入や脚色がともないますが、その割合がテレパシー式通信（霊感書記）と比べるときわめて少ないからです。

いま述べたようにテレパシー式霊界通信には致命的な欠点があるため、スピリチュアリズムではあまり高い評価が与えられていません。実際、世間一般でテレパシー式とされている霊界通信には、空想と言ってもよいような内容のものが多く、とても信用できるものではありません。誰が見ても作り話と思えるようなものばかりなのです。

そうした信頼性の低いテレパシー式霊界通信の中にも、多くのスピリチュアリストから高い評価を得ているものがあります。それがＧ・Ｖ・オーエンによる霊感書記です。英国国教会の牧師として人々から厚い信頼を得ていたオーエンは、ある時から霊的体験をするようになります。１９１３年から本格的な霊界通信が始まりますが、霊界から送られてくる通信が事実であることをオーエンが受け入れるまでに、実に２５年もの年月がかかっています。オーエンが受け取った霊界通信は、『ヴェールの彼方の生活』（全４巻）として出版されることになりました。オーエンの霊界通信は大反響を巻き起こし、スピリチュアリズムの普及に大きく貢献することになりましたが、そのことが英国国教会の反発を買います。オーエンは教会から圧力を受けるようになり、牧師を辞めました。そして、その後の人生をスピリチュアリストとして歩み通しました。

オーエンのテレパシー式霊界通信（霊感書記）は、机に向かってエンピツを握り、頭に浮かぶ思念を率直に書き記すという形で行われました。それをまとめた『ヴェールの彼方の生活』には、霊界の様子が絵画を見るように描写されているばかりでなく、スピリチュアリズム計画を推し進める大霊団の様子が詳細に描かれています。高級霊ザブディエルを指導霊とするこの霊界通信は、霊界を挙げてのスピリチュアリズム計画の一環として進められたのです。

コナン・ドイルが『ヴェールの彼方の生活』に序文を寄せていることから分かるように、当時のスピリチュアリストから大きな賛辞を受けました。モーゼスの『霊訓』、『シルバーバーチの霊訓』とともに、この『ヴェールの彼方の生活』は英国三大霊訓の一つとされています。しかしオーエンの記した通信内容を、『霊訓』や『シルバーバーチの霊訓』と比較してみると、霊界描写の点などで霊媒オーエンの潜在意識による脚色が色濃く表れていることが見て取れます。

現時点での霊感書記にはあまりにも問題がありすぎて、ほとんど信用できません。しかし遠い将来、霊感書記が霊界通信の主流になる時代が訪れます。

地球上に霊的真理が広まっていくと、それが人類共通の思想となります。霊的人生が当たり前の生き方となったとき、地球人類の霊性はいまよりはるかに進化を遂げています。それは何百年先、千年以上も先のことになるかもしれませんが、確実にそうした時代が到来するようになるのです。

霊性の向上とともに多くの地上人がテレパシー能力を当たり前のものとして発揮できるようになり、霊能者が特別の存在ではなくなります。当然、霊界人と地上人の関係はいまよりずっと実感をともなう密接なものになり、霊界と地上との交流が自由に行えるようになります。多くの地球人類が日常的にインスピレーションや霊感通信（テレパシー式霊界通信）を受けるようになり、それがごくごく普通の日常的営みとなっていきます。必然的に霊感書記が霊界通信の主流になり、それ以外の通信方法は不要となるのです。